第17話Fast game
そして三日後
『レディース! エンドゥ! ジェントルメーン! ただいまより! 電子世界競技大会を開催いたします! 種目は全部で四つ! すべて個人競技でございます! お集まりになられた方はもう聞いているかもしれませんが、この大会に優勝することができれば業か賞品が授与されます!』
真っ黒なシルエットのピエロが早口でまくし立てる。奇怪に動きながらラップも拭きながら、その先から音声が流れる。
『しかしですね。優勝賞品はたったの一つなのです! 残念! これだけ集まってくれたにも関わらず申し訳ない!』
見渡すのは空のグラフィック。その中に並ぶ色とりどりのサーフィンボードにのったキャラクター達。空中に浮かぶ白線の手前でだれもが『合図』を待っている。
そして、
『と、いうことで! スターーーーーーート! 第一種目【サーフィン・イン・ザ・スカイ】! 仮想空間に展開されたおおぞら! その風に乗ってゴールを目指せ!! ルールは二つ! 立体移動することと他の選手に干渉しないこと! 以上!』
美しすぎる大空。その中、キャラクター達が一斉にスタートを切る。
仮想空間。小説のように五感を投影することはできないがその中におけるキャラクター、その動きはなめらかであり、景色の一つ一つもまるでリアルと見違えるほどの光景だ。
その様子を美洋たちは情報管制室のスクリーンに映し出された映像で見ていた。
「おお、流石ハイド君だ。あの先頭集団の中にいる赤い髪のキャラクターがそうかね?」
この職場で働く職員のトップ、近藤が美洋に尋ねる。
「ええ、そうですね。しかしいいのですか? 他のお仕事も皆さんあるでしょう?」
「まあまあそう言わずに、私たちは結果が気になって仕事どころではないのだよ」
がはは、と大声で笑いながら美洋の方に腕を回す近藤。そしてそのままハイドに目を向ける。
ネットの世界に思考をシフトさせ、機能を停止させたハイドを。
「しっかしすごいな……。本当にリアルだ」
「一体どこの国が開発にかかわってるのか見当もつきませんね」
後ろで見ていた情報管制室の職員も口々に映像を見ながら感想を述べる。
「そうだな、ところで我が情報管制室かた参加した職員はどうなってる?」
「ええとですね……。風見課長は現在三百位、穂村副課長は七百八十三位。うーん、芳しくないですね」
「となるとやはり頼みの綱はハイド君だけですね」
そして職員たちの目はハイドに、そして美洋へと向く。
「みなさん、暢気すぎませんかね……。本当にこれで優勝しないといけないんですか?」
「ああ。しないといけない。アメリカ、ロシア、そして日本にリークされた情報によると優勝賞品は世界に変革を与えかねないものだそうだ」
「世界を変革……ですか。こんなゲームの先に……」
「ゲーム、確かにそうだな。だがこんな仮想空間を作ってしまえる集団でありながら全くの無名。一介のプログラマーではまず不可能だ。まず知識が足りない。解析部隊のほうが現在実行しているがそのプログラムも不明。そして資金もかかるはずだ。国か、それとももっと危険な集団なのか、背後に何者かの存在がいるのは確実だ」
「そして、日本はその背後に【マッドティーパーティー】がいると睨んでいるわけですね」
「……その通りだ」
映像が進む。レースの戦闘の様子が映し出され、その戦闘に移るハイドの姿が見える。その赤い髪が見えた瞬間に部屋は歓声が上がる。
「いいぞいいぞ! ハイドちゃん!」
「いっけ~! ラストスパートよ~!!」
『おおっと、ここでトップ集団、各自が速度を一気に上げていきます! さあさあ! この勝負を制するのは誰なのか!』
先頭集団が一斉にブーストをかけ、大空を滑走する。そしていくつかのキャラクターたちが先頭に躍り出る。
この大会は自身の作成したプログラムを使い、運営の用意したゲームをクリアしていくというもの。
この種目で言えば、いかに三次元の立体情報を持たせたキャラをいかに効率よく動かすプログラムを作れるか、というところでまず差が出てしまうのだ。
複雑なコードを準備してしまえばそれだけ操作も煩雑になり、動きも重くなる。
逆にシンプルすぎても簡単な動きしかできず他に差が付けられる。
その塩梅をうまく見つけることがこの種目の勝負の分かれ目だ。
『おおっと、ここで戦闘に出たのはハイド選手! ああ! しかしバランスを崩して後退! ザヤック選手が前に躍りでました!』
そのナレーションが話した瞬間、情報管制室の中の空気が変わってしまう。
「な、なにが? ハイド君がバランスを崩した?」
「いえ、あいつが電子上の動きでミスすることはまずありません。そしてそれよりももっと高い確率のものがあります」
動揺した近藤が美洋に問うが即座に彼は否定する。普通の人であれば操作ミスなどいくらでも思い浮かぶが今回ミスをしたのは美洋の相棒ハイドである。電子の中においては美洋すら上回る彼女がその電子の中でミスするとは彼は考えなかった。
そしてそのあり得る可能性を告げる。
「どんな情報が回っているのかは知らないがプログラマーであればこの企画の背後の集団がなんであれ、これだけの準備が可能である集団がくれる報酬、興味がある人はいくらでもいるでしょう。そして当然、そのためなら手段を択ばない人も出てくる」
「よ、ようするに?」
理解できなかった近藤が聞く。
「チートですよ。チート」
〇〇〇
「もおおおおおおおおおお!! あとちょっとなのに邪魔してくれちゃって! 誰よ?!」
サーフィンボードの上で崩したバランスを整えると自身にウイルス攻撃を仕掛けた相手を視界に収める。茶のロングヘア―のキャラクターだ。
「ふふふ、ふふふふふ。私相手に喧嘩を売ったことを公開するがよいよ……ふふふふふ」
かわいらしいい顔がもったいないといえるほどの邪悪な笑みを少女は浮かべる。
〇〇〇
「あ。ハイドが切れました」
「切れた?!」
「あいつのあの顔は俺がつくった試作品のウイルスの実験台になったとき以来ですね」
「み、美洋君……なんてことを」
「あ、動きますよ」
次の瞬間だった。ハイドの姿がかき消え、そして先ほど一位に躍り出た選手の目の前に現れる。
『おおっと!? いったいどんな加速をしたんだ?! というかあんな加速がこのゲームで可能なのかああ?!』
一位と二位が慌ただしく変わる情勢に観客もナレーターも大盛り上がりを見せる。
そして、
『ゴーーーーーーール!! 第一競技、サーフィン・イン・ザ・スカイを制したのはハイド選手!! 美しい赤髪をたなびかせ、ゴール! 二位のザヤック選手も僅差! おしかったでしね!』
『そうですね~。しかし……ふふふ、通告しませんか』
『通告? 何かありましたか?』
『いえ、本人が気にしないのであればいいでしょう』
『そ、そうですか? では気を取り直して次に行きましょう! 足きりの人数は五百人! それが決まれば第二競技に移りますよ!』
〇〇〇
「ふむ……通告というのはハイド君が受けた妨害のことかね」
「間違いなくそうでしょうね。この運営、何者かは知りませんが不正を見破る手段ももっているようですね。しかし彼らから干渉する気はない、と」
近藤と美洋がスクリーンの実況を聞きながら話し合う。そしてその後ろでは他の局員たちがまた別の話題で盛り上がる。
「いよっしゃああああ!! 残ったぜ!」
「四百九十五位ってギリギリじゃねえっすか……」
「穂村副課長は二百位以内に入ってますよ……というか美洋君なんてよそ見しながらのキーボード操作で十二位っすよ」
「う、うるさい! 間に合ったんだからいいじゃないか!」
騒いでいるのは参加していた職員とその部下たち。どうやら無事に第一競技の足切りには引っかからなかったらしい。
「しかし、運営は一体……」
〇〇〇
「第一段階の計画は成功。世界中から優秀なプログラマー、ハッカー、国のエージェントが集まった。【エンペラープログラム】の実験にはちょうどいいでしょ?」
「そうですね! その通りでございます! このような舞台を与えてくださり私! 感謝の思いに潰されてしまいそうです! ところで……ミヨー殿はいるのでしょうか?」
「ああ。いるよ。トランプ兵もマッドハッターもお世話になったからね。ついでに片づけてくれたら嬉しいね」
「ハイドというエルデロイドも?」
「勿論。頼んだよ、【白兎】」
「
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