Game day
第16話 prologue of the electronic tournament
私の足取りは重い。別に訓練のために重りを持っているとか、体調が悪いとか、そんな理由ではない。
ただ気まずいのだ。
私が今向かっているのは美洋さんの家だ。今までの私だったら喜びマックスで部屋に向かっただろう。どんな用事だったとしても。
先日の事件の時、私はあこがれだった美洋さんに会えるということですっかり浮かれていた。そして事実次々とマッドハッターの出すクイズのような謎に答えを見出し、瞬く間にランサムウェアの事件を解決へと導いた。
私は純粋に惹かれた。かっこよかった。でも、それだけじゃなかった。
先日の事件。犯人は美洋さんの育ての親のような人物だった。でも、彼に躊躇はなかった。躊躇なくその人物を牢屋送りにした。
私は美洋さんのことがわからない。
だから、もっと惹かれた。
彼の心が知りたい。彼の心が知りたくない。
相反する気持ちが私の中に芽生える。
興味という言葉だけじゃ言い表せない感情はきっと……
私はコンコンと控えめにノックの音を響かせる。
「はい?」
ガチャッと扉を開けて出てきたのは赤髪の少女だ。名前はハイドちゃん。私の尊敬する人の所有物であり、相棒であり、そして恋人のような存在。
「久しぶりね! お仕事持ってきたわよ!」
〇〇〇
「と、詩的な雰囲気を出そうとしても無駄ですよ。あなたの野蛮さは私も美洋君もすでに知っています。いまさら取り繕ったところでどうにかなるものではありませんよ」
「ちょっと?! 頭の中を読まないでくれるかな? ていうかハイドちゃん、そんな機能もあるの?」
「ふふん、あなた程度の単細胞の思考など読み取れない私ではありませんよ」
玄関から居間へと案内されるリーシャ。その短い道程のなかでハイドの毒舌を食らうのであった。
「き、きみねぇ……。というかそんなに口悪かったっけ?」
「美洋君の味方でも私の敵なら優しくする必要はありません! 美洋君は渡しませんからね!」
頬を膨らませて怒りの感情を表現するハイド。まるで本当に生きているかのような、そんな表情であった。
そして短い道程は終わり、美洋がいる居間へとたどり着く。
「美洋君、連れてきたよ~」
「お疲れ、ハイド。リーシャさんも久しぶり」
部屋で、先にソファにすわっていた
「ひ、久しぶりです! 美洋さん!」
どこか緊張した風のリーシャ。だが、前回もそうだったため、美洋は特に気にせずソファをてで指し示し、座るよう促す。
そしてハイドはキッチンの方へと消える。
「で、今日は何の用事なのかな?」
ハイドが紅茶をいれたカップを運び、美洋とリーシャにそれぞれ配る、それを終えるとちゃっかり美洋の膝の上に彼女は座る。
「む……。あ、はい。ええとですね。今回は国からの依頼を持ってきました」
「国から……いつもと何か違うのか?」
いつもなら依頼を頼まれるときに国からの、などという言葉は付けない。単純に「あれこれをやってくれ」で終わる。
「はい、ちょっと特殊と言いますか……。結局いつも通りの依頼なのですけどね」
ハイドが運んできた紅茶を啜りながらリーシャは答える。
「依頼は【世界電子競技大会】に出場し、優勝してくること、です」
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