プランは無いが船は出る

 やっと真夏の暑さから解放され、朝晩が過ごしやすくなってきた9月のある夜、Café MAKA-MAKAマカマカ店内唯一の大テーブルに、いつもの5人のメンバーが揃っていた。


 普段ならカウンター内でお酒を作っているツムギが、日替わりメニュー用のボードに何やら書き込むと、それを皆に見せて説明を始める。


「と、いうわけで、改めて整理しますね。1食に付き食材にかけられる原価は500円。品揃えは最低でも3品。ちなみに、フェス当日が10月7日なので、私たちに残された時間はだいたいあと2週間です」


 うわー、という声が上がり、ヤスが眼鏡をクイッと上げて確認するかのように尋ねる。


「その間にメニューひと通り仕上げるの? コータ君、キツくない?」


 皆の視線がコータに集まる。ツムギは心配そうな顔でコータに尋ねた。


「コータ君、どうしますか。ヤスさんの言う通り、かなり厳しい日程です。やっぱり断りましょうか?」


 コータは決然と首を振る。そして、パァンと両手を大きく打って立ち上がると、皆の顔を見まわしながら高らかに宣言した。


「……で、できらぁ! できるっつーかやる! やってやろうじゃねえか! なあ、皆?」


 ヤスは、「お……おう」と、心もとない返事をする。


 ミナミは、手にしたみやこまんじゅうをモグモグしながら、「私もなんか手伝うの? 学祭で白玉なら作ったことあるよ? てかこのみやまん売れば?」と、コイツさては何も考えてねーなという返事をする。


 そしてシンタは、「面白そうじゃん。けど、俺は今週末の式があるから、それまであんま手伝えないぞ」と、頼もし気に戦力外であることを告げる。


 皆の返事を聞いたツムギが、不安そうにもう一度コータに尋ねる。


「どうしますか。やっぱり断りましょうか?」


 コータは一瞬言葉に詰まったものの、直ぐにツムギに向けて、びしっと指さすと再び宣言した。


「や……やってやらぁ! 俺とツムギの2人だけになっても絶対やってやるぜ!」

「私は一緒にやる事前提なんですか」

「え? やるだろ?」

「やりますけど」

「よっしゃ! 決まりだ!」


 店内に、おぉ~とよくわからない歓声が上がる。かくしてCafé MAKA-MAKAオーナー、馬飼野まかいのコータの指揮による、前途多難な初めての航海が始まってしまったのだった。

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