はぐれ魔術師リベィの受難
葦崎 ハジメ
第1話
「貴方は間違っています!」
俺は何をしたのだろうかと、目の前に突き付けられている指をぼーっと見つめながら考える。暫し頭を捻り考えてみたのだが、やはり思い当たる節もないため、とりあえずは手に持ったビールに口をつけることにした。
「だから! リベィ、貴方は間違っているんですってば!」
何が気に入らなかったのか、彼女は口調を荒らげ、俺の額ギリギリまで突き出した指先にはこれでもかと言うほどに力が籠っている。
「ヒステリックな女は婚期を逃すぞ? アヴィ」
「余計なお世話です!」
真っ赤な髪から角でも生やしそうな勢いで俺を睨み付けるアヴィ。アビゲイル・ガランドという名の少女……というにはちょっとばかり年を重ねた
「聞いているんですかリベィ?」
「聞いてるよ。それと何度も言うが俺の名前はリベィじゃなくて、
「発音しにくいんですよ、貴方の名前は。だからリベィで充分なんです」
人様の名前を勝手に改名しないで貰いたいのだが。抗議しても結果は変わらないだろうから、敢えて反論はしないが。
「そもそも俺の何が間違っているって言うんだ、アヴィ?」
「それ本気で言ってますか? いやリベィの事ですから本気ですね」
呆れ顔をしたアヴィは、無数の空缶が載ったテーブルを指しながら言う。
「昼間から仕事もせずにお酒ばっかり飲んで、人としてどうかとは思いませんか」
いや全く……等というとアヴィが般若となるのは火を見るより明らかなので言葉にはしないが。
「仕事をするにも依頼が来ない。ならば酒を飲むのは必然じゃないか。つまりは問題ないってことさ」
「問題しかありませんよ」
数秒を掛けて深い嘆息を吐くアヴィ。
……解せぬ。
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ここは商業都市ファーバル、その一等地……とは反対にある街道から外れた人寂しい路地裏。そこに俺の事務所はある。人探しから浮気調査、人には言えない汚れ仕事まで何でも御座れの所謂裏家業って奴だ。
この世界にやって来て十数年、右も左も分からない行き倒れ寸前のクソ餓鬼だった俺を保護してくれたのが師匠だ。黒髪、黒目な俺を珍しがって拾ってくれたらしい。ただ魔術師の才能が有ったらしく、徹底的に
そんな師匠も年には勝てず、一昨年流行り病でポックリと逝ってしまった。亡き師匠の跡を継いで、今の家業をやっている。ただ俺は師匠から直接魔術を教わった口なので、魔術師養成機関【叡智の果て】を出た訳じゃない。所謂はぐれ魔術師と言う奴だ。なので魔術師組合の登録なんて物は出来ず、ファーバル支部からの依頼なんて物は受けられない。
因みにアヴィは師匠の孫娘で、俺の助手みたいな事をやっている。別にやらなくてもいいんだが、アヴィ曰く
そんな状態であるからには、ろくに仕事なんて有るはずもなく、我が【ガランドオフィス】は閉店開業なのである。
……あぁビールが旨い。
昼間からビール片手にソファーで寝そべっていると、入り口のドアが開く音が聞こえる。アヴィかと一瞬思ったが、足音が違う。残ったビールを喉へ流し込み呟く。
「さて仕事の時間かね」
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