第3話 林檎香る蒟蒻
貴女はどこにもいません。
あのね、見つからないの。
もうその声は聞き飽きた。少しうんざりしながら私は神社を後にした。真っ赤な鳥居は嫌い。足は行く先を知っていた。隣の林へと向かう。おみくじを引いたら凶だったのに、どこにも結ぶところがない。本当に枝の先から先までどこにも。どうしようもない怒りに任せて捨ててしまおうかとも思ったんだけど、そばの林の目立たない木に結ぶことにした。
けっこう怖い雰囲気で決めたのに勇気が出ない、全然ない。ゆっくりと足を進めていると、ふと甘い香りがかすめた。どこからするのかはわからない不思議に香る林檎の香り。あの赤い実は見当たらない。禁断の果実、真っ赤な真っ赤な姿。探し回っても見つからない。なぜか私は林の中を走っていた。困ってしまう。なんの理由もないのに林の奥へ奥へと足が勝手に動く。赤い靴などはいてない。林檎の香りに惑わされ私は完全に迷っていた。
そのことに気づいて足を止めた頃には、もう手遅れだった。方向も方角も分からない。あんなに聞こえていた声は全然聞こえない。つい耳をすませてしまう。それでも聞こえない。探しものが見つかったのか、それともあきらめたのか。
ぐるっとあたりを見渡していると、そのうちぐるぐると視界が回り出した。周りにあるのは見渡す限りの木、木、木、木、人。
1人いる、がんばるきこりだ。ひたすら木を切ろうとしている。
がんばれ。
もうとっくの昔からずっとがんばってるよ
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