第1話 葡萄香る挨拶
貴女はそこにいますか?
私は夢を見ているのか、はたまたこれが現実で今までが夢なのかわからなかった。
ただ一つわかる。
はっきりとした葡萄の香り。
私の記憶が正しければ、昨日の夜中に飲んだ果汁100%ジュースの濃いやつ。
その匂いがする。
私はまるでSFの世界にいるような、無機質な建物の屋上にいた。世界はビルしかなくて、まっすぐじゃない見たことがない形だ。それでもビルの中には人が詰められてると感じる。濃い葡萄の香りの中、青空の下で。もし私の記憶と季節があっていれば、五月のブルーな空模様だ。鯉のぼりが映える、赤も黒も青も、とっても映える空。
突然空が光る。
落ちてくると思った飛行物体は私の真上で止まる。宇宙人が乗っていそうな円盤ではなく、まるで車をろうそくで溶かしたような、車の形をした飴のような、雫が垂れて来そうなドロドロカーから光線が降りてくる。
あ、貴女はそこにいるの?
そう言われた気がして、
私はここにいるよと返事をしてしまった。
缶拾いに使う長い道具。あれで私は掴まれて、光線の中を吸い込まれて行く。
あ、そうか。
私が葡萄の缶ジュースの空き缶なのか。
この人はゴミに声をかけたのか。
変わった人だなあ。
持ち上げられながら見えた景色。
無機質な屋上が草で覆われて行く。ごめんね私がいたから邪魔だったよね。そう思う。
草はどんどん広がっていき、あっという間に小さく見える景色を覆い尽くす。
私のよく知ってる森の景色になった。
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