第8話
チーの後ろを追うように、
クロ、そしてサトはずんずん
青い空の上を上がっていきます。
太陽の光を浴びて、
白い雲を掻き分けながら。
時には階段を登るように。
時には翔ぶように、泳ぐように。
「誰にも会わなくてよかったかい?」
チーがいいます。
本当は大好きな、ガラス越しに
いつも来ていた白い猫にまた
会いたかったんだけど…残念。
あと本当は、さっきクロと取っくみあって
思い出したけど。
小さい頃別れたきりの
ママや兄弟猫にもう一度会いたかった。
だけどママに会ってしまったらもう
旅をする気になれないかもしれない。
兄弟たちが幸せいっぱいだったら。
どうだろう。
サトも嬉しいかしら。
サトもまぜてほしくて泣いちゃうんじゃ
ないかしら。
そんな難しい気持ちになってきたので
サトは口に出さないでいました。
随分と高いところまで来ました。
「うわわわ」
チー達とはじめて会った時は
電柱の電線を伝って歩くくらいでしたが、
今の高さといったら
「鳥みたいだねえ」
そのとおり、サト達と並ぶように
スズメにウグイス、シジュウカラ。
様々な鳥達と並びすれ違い。
チュンチュンチチチ、ツィピーピー
様々な声がまるで音楽のよう。
楽しい楽しい。
ほら、地上があんなに小さい。
果てしない地平線。
鳥たちはいいよねえ
毎日こんな光景をみれてたんだねえ
「もっともっと上にいくの?」
「そうだね、でも時々下る」
チーの言葉にサトがきょとんとしていると
ざあん!
震えるような轟音。
それは、何と波でした。
サトがはじめて見る…海!
果てしない青い海。
サト達はこんなに高い空にいるのに
波飛沫がサト達を包みます。
え、ええ、えー!!
気づいたら三匹は海の中にいました!
さっきまで様々な鳥達に囲まれてたけど
今度は様々なお魚たち!
「美味しそうだよね」
ボソッとクロが呟きます
…確かにね
しかし何という。
はじめて見る海の世界。
サトの知る世界とは、
鳥達の世界とはまた全然違う、
でもお空と同じなのは。
果てしない青、蒼!
そしてここも、お日様の光が
届くんだ。色んないろのお魚たちが
光を浴びて。海の色に包まれて
きらきら…なんてきれい。
あ、チーもクロもきらきら、
光に包まれてる。
サトもだ。なんてきれい。
「…あ!おっきいのがきた」
イルカです。
数頭のイルカが凄まじい速さで
サト達を追い抜いていきます。
「…道の方向と一緒だね、暫くは彼らに
ついていこう」
チーが言いました。
サトにはまだ全然わからないのですが、
チーは出鱈目に進んでるわけでは
ないようで。
鳥の跳ぶ気流、魚の流れる気流、
風の流れる軌跡。
その中に『道』があるようでした。
「でもチー、あいつらについてこうって」
「早いよおー!」
…
風が吹きます。
いい風でした
サト達が旅だってから
どれくらいたったか。
大して時間がたってないような
随分たったような。
でもあの日、
サトは確かに旅立った気がする
浩(ヒロ)はまた絵を描いていました。
またサト、チー、クロ三匹の絵を、
色鉛筆で丁寧に描いていました。
お母さんが倒れたのはそんな時でした
《続きます》
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