きらきらこころ
英邑美月
第1話
きらきら。きらきらと。
鏡を覗きこむとそこには自分がいて。
その側で、
宝石の様にきらきらと
光り輝いているのです
サトがお空に行ってしまったので、
浩(ヒロ)は自分もお空に行きたくて
行きたくて堪らないのでした
サトは猫です。
クロとシロのハチワレもよう、
エメラルドの様な鮮やかな翠の
まんまるおめめ。
家族みんなサトが大好きでした。
お父さんもお母さんも病気がちで、
裕福じゃあないけれど
サトがにゃあと鳴けば皆にっこりです。
浩とってサトは自分の弟のような。
いえ子ども?
いえまるで自分自身の分身のような。
そんな近い近い存在なのでした
その1週間は大雪でした。
浩の住んでる地域は
昔に比べ雪が降らなくなったと
お父さんが言ってたことがありますが
これほどの大雪は30年ぶりくらい
だったそうです。
お家は浩の家もお隣さまも
みんなカマクラの様になって。
車もちいさなカマクラになって。
お庭の沢山のお花も木々も
秋に植えたチューリップも
どこにあるんだかすっかり
わからなくなってしまいました。
もしかしたら、もともと心臓に持病が
あったかもしれない。
動物病院の先生が最後に言った言葉です。
いつも元気だったサトは
急に元気がなくなって。
やがて動かなくなってしまいました。
浩もお母さんもお父さんも
必死でサトを呼んだのですが、ヒロの
腕のなかでサトはどんどん冷たくなって
いきました
サトは小さなお家になりました。
黄色い、小さなお家の形の木箱に
サトはいます。
雪のなか、お葬式があげられて
よかったねとお母さんがいいました。
大きなお骨はお墓に入ったけれど、
小さなキバや小さなお手手や。
ああサトだねえ。という、
そんなお骨をいくつか
浩とお父さんとお母さんと皆で選んで、
この小さな箱に
分けてもらったのです。
お家は皆のいる居間に置いて
サトの写真をいっぱい飾りました
浩は全然泣きませんでした。
サトが腕の中で冷たくなってから、
小さなお家になるまで。
いえどちらかというと。
泣けなかったのです。
それほど浩の心はかちんこちんに
なって。それに
お父さんお母さんもかちんこちんに
なってるのが、痛いほど伝わってきたので。
…やがて。
「お母さん、悲しむんじゃないにゃん。
オレはここにいるにゃん」
浩がそう呟きました。
お母さんは寂しそうに微かに微笑みました。
サトが元気だった頃から。
サトがお母さんに餌をねだると
「お母さん、はよご飯くわすにゃん」
サトがお父さんがなかなか寝なくて
鳴き出すと
「お父さん、はよ布団ひくにゃん。
お父さんの布団で9時には寝るって
決めてるにゃん!」
浩は毎日のようにサトが鳴くたび
気持ちを勝手に吹き替えしていたのでした。
その吹き替えが余りに的確なものだから、
お父さんもお母さんもつい吹き出した
ものでした。
『オレはここにいるにゃん』
お母さんを慰めたつもりで
いった言葉は、虚しく虚しく
浩の心に響きます。
ああ…サトいるの?
お空にいるならヒロも行きたい。
ここにいるなら
どうか幽霊でもいい。
どうか出てきて。
…ここにいるなら
ここに。
『…オレはここにいるにゃん』
サトの。
サトの翠色の瞳がきょろきょろします。
…サトはいました。ここに。
浩が。お母さんがお父さんがいる。
…この居間にいました
サトは何が起こったかは
覚えてません。
ただあの日。周りの風景が真っ白になって。
雪というものがどんどん降って。
サトの体もどんどん冷たくなって、
雪に埋れてく感じがしたのを
何となく覚えています。
気づいたら今ここに。
いつもいる居間にいました。
いつもどおりの居間。
いつもどおりのお父さん。
いつもどおりのお母さん。
いつもどおりのヒロ。
…でもなんで。
誰もサトに声をかけないのでしょう。
サトはここにいるのに。
いつもサトがお部屋にくると
皆みんなぱあっと明るくなって
お日様のようにニコニコしてくれるのに。
なんだか今は。
…あの雪の日のように。
皆雪に覆われて。固まっている。
白い。冷たい。…寒い。
さみしい。…哀しい。
くーん。
堪らなくなってサトが鳴くと。
「……?」
浩が。浩の瞳が少し息づいた気が
しました
お母さんがどうしたの、と問いかけますが
浩は何も答えませんでした。
…サトがここにいる気がするなんて
お父さんお母さんに変な事いって
尚落ち込ませちゃいけない。
浩はそう思いました。
でもねえ。
サトいるの
幽霊でもいい
会いたい
…何でしょう。
浩が、お母さんに悟られないように
しながらも自分を探してきょろきょろ
してるのが。
サトは嬉しくて。
雪の日のように寒かったけれど。
ほんの少し。
あったかくなってきて。
ててて、と浩に近づいて、
すりつきます。
お母さんにもすりつきます。
お父さんにもすりつきます。
3人はまだ何だか固まっていて。
雪の様だけれど
でも諦めずにすりすりします。
やがて、浩が立ち上がって
片付けてあったサトの
ご飯のお皿とお水のお皿を
持ってきました。
お母さんは不思議そうに
浩を見ていましたが、
「…サトのご飯…余ってるから」
そういって、いつも通りに
サトのお皿にご飯のカリカリを
入れました。
お水のお皿には少し水をいれました。
余分に買ってあったので
沢山残ってしまったサトのご飯は
未開封のものは
近所の猫が沢山いるお寺に
寄付することになったのでした。
サトの分まで食べてねと、
そんな思いでしたが。
でも封をあけてしまってた分は
お寺ネコちゃん達にはあげられ
なかったから。
だからサトのでいいよね。
封のあいた袋の中の、このカリカリが
残ってるうちは
サトはててて、とお皿に近づいて
ご飯を食べてお水を飲みました
「……」
そんな気がして浩は目を丸くしました。
…一瞬だけ。
もちろんよく見れば、
ご飯も水も減っていません。
でもサトに。届いてます様に
『~♪』気のぬける電子音。
人間様のご飯が炊き上がった、
炊飯器の音です。
「神さん仏さんにご飯あげなきゃ…ヒロ持ってって」
お母さんと浩が台所にかけていきます
サトはそんな二人を
顔を洗いながら見つめていました
《続きます》
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