異世界を統べる「大罪」、現実世界を守る「協会」、両者から情報を得る「機関」。そのうちの一つ、「機関」に所属する男子高校生、笠井蓮。自身もその身に半分異世界の血を継ぐ彼は機関のアルバイトとして、情報を調査し、報告する。これはそんな彼と、その周囲の者達の織り成す、輝かしい光でも陰謀渦巻く闇でもなく、影の物語。
異世界と現実世界が混じりあう物語は古今東西多くあれど、そこで繰り広げられるスパイ・情報戦はあまり多くないのではないだろうか。主人公笠井蓮、その上司であり養父である部長、機関の先輩瀬谷鶴亀、上司であり部長とただならぬ関係を持つ松山、そのほか多くの人間や人間でない者達が繰り広げる物語は、苦く、無情で、舌を痺れさせる甘さと共に、作者のセンスを感じる耽美な文章で描かれる。文章そのものも魅力だが、勃発する事件、取り巻く人々、そしてそれに機関としてかかわることになる蓮の動きや心情も惹き込まれる一つである。「さら境」世界のキャラクターは皆一癖も二癖もあり、噛めば噛むほど魅力が増す。蓮はもちろん、一見淫蕩な「部長」や一見常識的な「瀬谷鶴亀」など、読むことで彼等の新たな一面をみれば、きっと魅力に取り込まれるだろう。
別視点でもある「See Line Again」も含め、この「影」の世界観にぜひ浸ってみてほしい。