人類最古の殺人と、それにまつわる与太話(ba) 1

たかなん

観測史上最古の殺人記録について

 愛する物語へ


 ■1


 一見さんなのか普段は時間が合わないのか、初めて見る他の客が会計を済ませて外に出ていく。

 ――夏の最中でも黒スーツは大変そうだ。自分はそういう職業にはなるまい。――

 筒木島つつきじまは目の前の会話が切れそうな最中に別のことを考えている。

 黒スーツに思考を逸らされた訳ではない。ただ、まとまらないのだ。

 落ち着かない、とも言える。ただの雑談ですら、他の事に思考が追いやられてしまいテンポよく返すことが出来ない。

 時計を見る。もう残り四十分程度だろうか。繰り返し時計を見るこの動作も、集中を乱す。

 落ち着かない。理由はなんだろうか。いや分かっている。

 世紀のショーが始まるかもしれないし、ただ今のまま時間が続いていくだけかもしれない。でも、残り四十分程度で訪れる人類二度目の瞬間を、初めて意識して迎えることに対する感情が邪魔している。

 ――緊張、しているのでしょうね。――

 柄にも無いことをまぁ、実践しているものだ。呆れて物も言えないし、ため息すら出ない。でも、緊張なら和らげることが出来るのはありがたい。

 結局のところ、未知であることが緊張をもたらす。

 気を張り、何がどうなるか分からない未来に対して、どんなことが起きても対処できるようにしているから、緊張なのだ。

 だから、

「結局のところですよ、今回の終着点ってどこになるんですかね」

 言った。

 話の切れ目に、質問を投げかけてみた。


 ■2


 人類の科学技術力は、この日に頂点を迎えたと言って良い。

 2108年6月。地球標準時刻で12時丁度。

 世界初の、過去へのタイムトラベルが行われた。

 この世紀のサイエンスショーに世界は湧いている。

 間もなく11桁に届きそうな人類人口のおよそ9割が(残り1割は理由があって視聴できない人)人類叡智の到達点を見ようとしていた。

 全世界、全宇宙に配信されたタイムマシンの起動・ジャンプは二度と塗り替えられない同時視聴者数を記録したリアルタイムイベントとなるだろう。

 いや、なった。


 既存の乗り物からはかけ離れた形状の器が、選ばれた人間を15人送り出した。過去へ。人類が遡れるだけの過去へ。

 カウントダウンの後、器がブレる。。ブレという視覚現象は発生していない。変わった、ブレたのだ。


 タイムマシンは、先史時代への足がかりへと飛んだ。

 人類が絵や文字で記録してきた最古の時代よりも前。考古学的な発見によって導かれた最古。

 つまり、。その遺骨から想定された人類最古の年月へ。


 今回のタイムトラベルは、実は最終目的地までの道半ばだった。

 まず、人類が最大限に観測可能な過去時間までジャンプする。

 ジャンプした先で、更に古い痕跡を調べる。

 痕跡は、最初と同じように遺骨でもいいし、日本でなら貝塚のようなゴミ捨て場、古い居住地など、現代から見れば「遺跡」や「遺構」などと呼ばれるランドマークがベストだ。

 今は慎重に事を運ぶために物品を持ち帰ったりはしない。

 その場所の情報を記録し、また映像などに収めて現代に持ち帰る。

 その後は繰り返しだ。最初の人を頼りに飛んだように、事実として観測した人類の痕跡が生きていた頃にタイムトラベルで戻る。

 より過去へと遡ることができるようになる。

 そうして過去へのジャンプを何度も実施すれば、いずれは1つの答えが見つかるだろう。

 つまり、人類は、どこから来たのか。その答えに


 何事もなければ、たどり着くはずだった。

 お祭り気分は、標準時刻で13時22分には世界から掻き消えていた。


 ■3


「終着点ね。人類史の出発点を探し始めたっていうのに、どうしてこうなったんだろうね」

 モニター越しに戸米とごめが言うのを、テーブルに上半身を投げ出しながら筒木島は聞く。

「どうしてもこうしても痕跡に向かって飛ぶって事は現地人類に遭遇する事も期待してたんだし期待通りだろう」

 瀬戸はコーヒーを一口飲んでから一息に言い切る。若干息苦しそうだが、まだ直してもらっていないのだろうか。

「とは言え、あんなコントみたいな出来事が起こるもんなんですね」

 筒木島は言って、あの動画を思い出す。

 タイムトラベル先で起こったことの一部始終。それを観測することで、まずは解決の一歩とするため人類全てが見た動画。

「降り立った隊長と、何事か警戒してやって来た調査対象。驚きすぎて泡吹いて倒れて、その時に後頭部を石にぶつけて即死って、もう、なんて言ったら良いんですかね?」

「人類の血は赤かった」

「青かったらちょっとルーツ違う別次元の話になりそうだなタイムトラベラー全員食い殺されたりしそうだけど」

「異星人の住む世界の方がマシでしたねぇ。12人しかいない人類直接の母である1人が死んで、世界の何人か消えた世界よりは」

 いや、お腹を突き破ってくる異形種よりは、まだ良いんだろうか。

 ――また変な事考えてますね。――

 筒木島は自問する。このネタで会話始めましたけど、この後の結末、少し怖いがありますね。

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