第6話 人間

 記憶が途切れている。

 僕はマイナの野生化に襲われて……、そこで来たのが、人間だった。

 覚えているのはそこまでで、今目を覚ますと僕は医務室に居た。

「や。お気付きになり申したか」

「……?」

 僕の寝ているベッドの横にいる女性は、白鳥ハクチョウ白鳥しらとり瑞葉みずは。医務室の看護婦かんごふだ。

「えっと……、なんで僕はここに?」

貴殿きでんは人間が現れたすぐあと、盲腸の痛みとショックで気絶してしまったのだ」

「き、気絶?」

 そ、それって…………。

 くっそダセェェェェェ……!

「あの人間は体術でマイナ殿を眠らせ、すぐに山を降りていった。今はある程度安全が保証されている」

「そうなんですか……。まぁ、良かった……のでしょうか?」

「良かったのであろう」

 他の鳥類もだが、独特な口調で瑞葉は喋る。

「貴殿の盲腸も手術しておいたので、今日は安静にしておいて明日から、また訓練に復帰すると良いだろう」

「はい。わかりました」

 僕は普通の返事をしたが、やっぱり瑞葉は凄いんだなと、改めて思ったところだった。

 盲腸の手術を『』やるような、人間以上の医術を持つ女性。それが瑞葉だ。美しく長い白い髪を和風なかんざしでまとめ、これもまた美しい、薄い桃色の着物を着ている。帯で締めているため抑えられているが、それでも際立つ大きな胸は一層……。

 ヤバい。つい兎の本性で語ってしまった。

 とにかく、瑞葉はゾーマ先生と並ぶほどの美女だ。歳も僕より人間年齢三歳ほど歳上で、その程度なら僕のストライクゾーン範囲内。ヤルなら問題は……。

 ……って、またそういう話に……。

「ん? どうしたので? 黙ってしまって」

 ずっと喋らずに瑞葉を見つめていた僕を怪しく思い、瑞葉は少し頬を赤らめて言った。

「ああ、いえ。少し考えごとを」

「それは……イヤラシイことであるのか?」

「いやなんでそうなるの?」

 当たってるけどさ。

 瑞葉は俺の顔をじっと見つめ返した後、立ち上がって自分の机に向かった。席についた瑞葉は机の整理をしながらも、チラチラとこちらを見てくる。赤い頬はもとの白を取り戻すどころか、一層赤みを増していく。

 ……もしかして瑞葉もそういう系が……。

 ちなみに僕達の進化は、繁殖活動にも影響している。生殖器官の変化により、異種間での行為は可能となっている。ただし「科」が違うと、その遺伝子の差から子供は出来ない。まれにハイブリッドが産まれる話を聞くが、僕は実際には見た事がない。おそらくは性教育のための脅しのようなものだろう。何せハイブリッドは、両親が美形でも醜い見た目となるのだそう。自分の子供が醜いのは嫌だろうから、この話をしておけばな異種間での行為は防止できる。

 しかしぼくらはエッチぃ生き物で、この進化の果てに何が起こったのか、異種姦を好む。勿論僕もそうで、同種族とヤルよりは巨乳な大型種や美形の鳥類との方が好きだ。

 と、アダルトな話題はここまでにして。

 あの人間はなんだったのか。僕を守った? マイナを安静にさせた? ……何故?

 人間は私利私欲で動く、他生物を安易に殺す生き物だと聞いていた。が、あの人間は僕達を誰一匹として殺さず、むしろ守った。

 ……一体何が正しいのか。

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