ヒューマン&エーアイ

 美洋とアリスがエレベーターで再びジキルとハイドがいる場所へと戻ると、そこには二人で並んで美洋とアリスを待っていた。



「美洋! 戻ってきたんだね。それにアリスも」



 ジキルは美洋とアリスを抱きしめる。それに美洋はいつも通りの面倒そうな表情、そしてアリスは戸惑ったように俯いた。



「ジキル、その様子ならハイドの説得は成功したって事?」

「うん、ハイドも私と同じで真希奈を生き返らせることにしてくれたの!」



 それにアリスは目を輝かせる。そして美洋はハァとため息をついた。美洋がいない間にどんな話が進んでいたのか美洋は正直呆れながら言う。



「お前たち、分かってるのか? 姉さんの言う蘇生にはお前たちのブラックボックスを使用するんだろ? そんな事したらジキルもハイドもいなくなっちゃうんだろ? 僕ははい、そうですかとは認めれないよ」



 美洋の言葉にハイドかつかつとヒールを鳴らして近づくと美洋を抱きしめた。



「全く、君はこんな私の事を心配してくれるのか? 憂い奴め。だから、こそだよ。ジキルと決めたんだ真希奈がいれば私達はまた戻れるかもしれない。だけど、私達の心を使わなければ真希奈は戻らない、なら全員助かる可能性がある方法は真希奈を救う事じゃないか?」



 ジキルとハイドは、自分達が助かる事なんてこれっぽっちも考えてはいない。なのに、こういえば美洋が納得するだろうと二人で話し合い、一番の考えがそれだったのだろう。

 そんな事が分からない美洋ではない。



「二人は本当にいいんだな? 僕もベストは尽くすが、君達をサルベージする事ができるのか、到底理解が及ばない。なんせ、エクスマキナの最終問題は解けないという事で結論されているからね」



 美洋ですらさっぱり分からないそれ、そんな中、アリスが話に割ってきた。



「私も手伝う。私なら絶対にサルベージしてみせるよ。私は……真希奈お姉様に会いたい……だけど、エルデロイドの……君達の事も嫌いじゃない」



 恥ずかしそうに言うアリスの頭をジキルは撫でる。ジキルはこそばそうで、気持ちよさそうに目を細める。



「ありがとうアリス。任せたからね! ハイド、じゃあそろそろ」

「そうだな」



 ジキルとハイドは水城真希奈を蘇生する装置の起動を開始する。それは起動しようとして、止まる。



「あれ、おかしいな」



 ジキルが再び操作するがやはり変わらない。そんなジキルを見てハイドが変わる。



「何を遊んでいるんだジキル……これは『悪魔の玩具』が我々の進行フェイズを拒否している。どういう事だ?」



 明らかにイレギュラーが起きた事に、美洋とアリスも二人の横に立ち操作を手伝う。水城真希奈の入った試験管にロックをかける。



「おい、この『悪魔の玩具』って装置。まさか、独立したAIなのか? お前たちと同じような……」



 それに戸惑うジキルに変わってハイドが頷いた。



「そうだ。この『悪魔の玩具』にも私達と同じ、心臓部がある。こいつは自走では動けない。からエルデ、私達は人型のボディを持っているからエルデロイド。違いがあるとすれば、私とジキルは水城真希奈がじきじきに作った初期型に対して、この『悪魔の玩具』は私とジキルが起動させて、この施設の守護神として育てたんだ。その守護神が私達の命令を利かなくなった……という事だよ」



 妙に落ち着いているハイドに対してアリスは怒鳴る。



「という事だよ。じゃないよ! どうするのよ? こちらからの操作を受け付けないんじゃ、もうクラッキングするしかないじゃない」



 そう言ってアリスは目の前の『悪魔の玩具』を破壊しようと考えるが、ハイドにアリスは肩を掴まれる。



「待ちたまえ、日野元アリス。今この『悪魔の玩具』はそこら中の軍事基地のミサイルの発射ボタンを握っているんだよ。現時点ではこの『悪魔の玩具』がもっとも優位な存在と言える。私やジキルのように、人間らしくはないが、この『悪魔の玩具』もまた独自の自我を形成してしまったという事だろう。それ故、交渉の余地は製作者である私達に任せてもらいたい」



 ハイドはジキルに端末を操作するように指示をすると、マイクを取り出してハイドは『悪魔の玩具』に質問をする。



「一体どういう事だ? 私の指示を聞けないというのは、少し信じられないのだが、一体どうした? 私達は腹をくくった。水城真希奈の蘇生の為に我が身を捧げようとしているのだ。強力してほしいのだけど?」



 機械言語やコンピュータ言語ではない言葉を使う事から、美洋やアリスへの配慮そして、人間の言語を『悪魔の玩具』が理解しているという事の証明。


『否』


 帰ってきた返答はその一言であった。『悪魔の玩具』の反応に対してアリスは無表情になる。それは恐らく怒りの感情なのだろう。それに気づいた美洋はアリスに自分の持つモバイル端末とノートパソコンを渡す。



「それで遊んでおけ、アリスお前の出番はまだだ」



 アリスはそう言われ、美洋を見つめる。美洋が頷くのでアリスは満面の笑顔を美洋に見せた。そして適当な席に座ると美洋のパソコンとモバイル端末を使って何か作業を始める。ジキルとハイドはエルデロイド、情報処理においては人間ではかなわない。だが、二度の電子戦でそのエルデロイドですら打ち負かしたアリスに武器を持たせておく事は危険性ははらんでいるが、現在人類の唯一の抑止力であると美洋は踏んだ。

 そして、少しばかり静かになるだろうという気持ちも大半孕んでいる。



「ハイド、なら各国の基地へのハッキングの件を解除してくれないか頼めないか? 一番の問題からなんとかしていければ、あとは僕達個人の問題だけで済む」



 美洋の提案に頷いたハイドはその質問を投げかけようとして、『悪魔の玩具』は回答した。


『承認不可』


 まだハイドは問いかけていない。となると『悪魔の玩具』は自ら美洋の言葉を聞き、そして理解した上で判断を下した。



「僕の言葉も理解しているんだな。であれば、聞きたい。君の要望はなんだい? 出来る事であれば尊重しよう」



 美洋の提案に対して、しばらく長考する『悪魔の玩具』そして大きなディスプレイに表示させた答え。


『真希奈は私の物』


 それがどういう意味を持つ感情なのかは美洋には分からないが、ずっと補完していた試験管の中にいる真希奈をこの『悪魔の玩具』は手放しなくなくなったという事なんだろう。

 そして美洋は『悪魔の玩具』が長考した程度の時間、同じ長考すると「なるほどな」と独り言を呟く。



「分かった。だけど、何故武装解除は聞き入れてくれないんだろう?」



 美洋の質問に対して次は瞬時に答えが帰ってきた。


『人間は真希奈を殺すから、次は私が人間を滅ぼしてみせよう』


 ジキルとハイド、そして美洋。全く関係なく一人で作業をしているアリスでも気づいた変化。『悪魔の玩具』は急激に成長しているという事。

ジキルとハイドとは違った結論を『悪魔の玩具』は出した。それは考えた結果なのだろう。『悪魔の玩具』の使命は、時が来るまで水城真希奈を守る事、そんな中で水城真希奈を唯一の存在として『悪魔の玩具』は捉えた。

 そのいつか来る時を先送りにする事で、永遠に水城真希奈と共にあろうと結論づけなのかもしれない。それに美洋は言う。



「人間はいつか死ぬし、多分いつか滅ぶ。君がそれを行使する必要はないんじゃないか? 人間が愚かだと思うなら、そんな愚かな存在と同じ方法を取るのはいささかナンセンスだ。それに実行しようと思えば簡単に実行できたんじゃないのか?」



 美洋は淡々とそう言う。

 図星である事をつかれた『悪魔の玩具』は長考し、回答を出さない。それは自分に対して不利な発言を黙秘する犯罪者のように……

 美洋はゆっくり視線をアリスに向ける。アリスはまだ何か作業をカチャカチャと行い。ジキルとハイドもアイコンタクトでまだ動かない事をサインする。

『悪魔の玩具』が人語を完全に理解している時点で、『悪魔の玩具』に不意をつくのは至難の業。いわば、『悪魔の玩具』の腹の中にいる美洋達の不利は一向に変わらない。


『その通だよ。全面戦争になればこの施設の防御システムでは守り切れない。だが、人類もそのカードは切ってこない。人類のように硬直状態を続ける事が結論として最善と判断した』


 いくつかの国家間の考えをそのままトレースした『悪魔の玩具』勝てないけれど、負けないという立ち位置になる事こそが最も優位である。

 しかも、『悪魔の玩具』は各国のミサイル管制系を掌握している。自分に害があれば報復をするという手段。

 さらにいえば、強硬策にでれば『悪魔の玩具』は無差別核攻撃を行うという強迫付き。各国の首脳では絶対に出さないであろう提案を美洋は『悪魔の玩具』に提示した。



「なるほど、だけど人手がいるだろう? 僕等が協力しよう」



 これはキングの前にいきなりポーンをすっ飛ばして置く一手。『悪魔の玩具』が美洋の発言の正当性を判断。

『虚偽の可能性。0%。その申し出を受け入れます』

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