クイーンバトル

red queen

 生まれてこの方自分の容姿を好きになれた事がない。街に出れば同性に声をかけられ、たまに異性に声をかけられたかと思うとモデル、アイドルに興味がないか? 興味なんてない。どこにいても自分はどうせ穴としか見られていないんだから……男として生まれてきた事は一つの救いだったかもしれないなんせ妊娠する事がないんだ。


 私をお金を生み出す人形だと思っている両親を殺すのはいつも私を買いに来るお父さんと同い年のオジサンからもらったお金で買ったアルミホイルで十分だった。

 児童養護施設という場所に連れていかれ、そこでは暖かい食事と寝床を手に入れる事ができた。だけど、安堵する時間は何日あっただろうか? 最初は年上の孤児に女の子扱いを受けてイジメられた事が最初だったかもしれない。


 男性職員は最初こそ私を守ってくれていたけど、私に代償を要求するのに時間はかからなかぅた。

 言う事を聞いていればお菓子も服も多少のお小遣いだってもらう事ができた。そしてその多少のお小遣いを使って児童養護施設を爆破するのにかかった年月は半年程だったろうか? 両親と児童養護施設のお金とパソコンを持って自由な時間が始まる。私程の年齢であれば男女もれなく高く買ってくれた。


 最初から汚れたこの体がどれだけ穢れようとなんとも思わない自分がいる事に嫌悪しながら、私は独学で力を磨いた。私が生きている事を許さない世界へ反逆できるだけの力、そう私は出会ったのだ。



「真希奈姉様」



 彼女は私を弟として、真なる弟として迎えてくれると言った。真希奈姉様は私に様々な知識を与えてくれた。どんな強固なプロテクトでもクラッキングできる技術、そして私の望む世界、私と真希奈姉様以外の人間をこの世から抹消するプログラムを時間をかけて練った。

 その為には本当に嫌だったけど、真希奈姉様の同士である。マッドハッターとシェリーメイの力は大きかった。私の知らない智識や技能をどんどん吸収する事ができた。


 私は彼らの部下としてのトランプ兵として、そして彼らの上司としての赤の女王として二つの顔を持つ事になった。

 マッドハッターとシェリーメイは私を水城美洋の再来と言って喜んだ。それに少々の怒りを覚えていたが、真希奈姉様ですら、美洋と同等の力を持っているだなんて私を侮辱した。私は真希奈姉様の本当の弟、水城美洋なんてもう既に超えている。


 それを証明する為に単独で水城美洋と電子戦を繰り広げた。あれは本当に小手調べ程度だった。だけど、まさかあんなに早く追い詰められるだなんて思いもしなかったのだ。

 水城美洋は私と近い人間である事が分かった。私は壊れてしまった人間、それに対して水城美洋は元々壊れていた。

 その違いは多分交わる事のないレベルの綻びなんだろう。そして私と違い水城美洋にはパートナーがいる。あれはジキル。


 人型情報端末エルデロイド、真希奈姉様の最高傑作だ。あんな物を使われたらさすがの私も単独では勝てない。だから、私は赤の女王としてもう一度水城美洋に挑戦する。

 次は無限の兵隊。トランプ兵を使って私は戦うつもりだ。電子戦だなんて言わせない。完全なる虐殺。完膚なきままに水城美洋が負ける姿を見れば真希奈姉様は私を本当の弟として迎えてくれるハズなのだ。


 私はその為に生まれてきて、その為に今まで生きて来た。その為に人には言えない事をして今まで生きて来たんだ。

 だから、私は私の全力を持って水城美洋をこの世界から追放する。シェリーメイは私が捕まっている間に都市麻酔をちゃんと発動させた。

 この街を人類の炎で焼いて見せれば、その制圧力、その効果性を全世界に知らしめる事ができるハズである。


 そうすれば、世界は私を受け入れてくれる。トランプ兵でも赤の女王でもましてやハートの女王でもない。

 私は何かの代償になるカードではないんだ。人間として日野元アリスとして受け入れられる日がやってくるハズなのだ。

 あと一回、あと一回汚れれば、私の魂は浄化され高次の次元へと導かれるのだ。その時になったら私は真希奈姉様とお茶会を開こうと思う。なんの話をしようか? ロボット工学? それともお料理についてだろうか? 私の求める物があと少しで手に入る。

 あと少し、手を伸ばせば届く距離。

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