red angel

 重犯罪者収容施設、その中でも未成年の犯罪者を収容する場所の一角に隔離されたところがあった。未成年では本来あり得ない名称を持った特例接触禁忌犯罪者。

 彼、日野元アリスがそこにいた。彼の食べたい者、着たい服、情報端末やそれに属する機械は無理だが、それ以外ならなんでも思い通りに手に入れる事が出来た。

 されど、部屋からは一歩も出れない。日野元アリスを人間だと思うな。それがこの収容施設の職員たちに厳しく通達されていた事であった。



「そろそろ、お兄ちゃんと遊ぶころあいかな?」



 日野元アリスは自分が収容されている部屋を見渡す。住めば都というが、この部屋はネットカフェの部屋より住み心地が良かった。

 コンクリートで造られ、エアコンとベットとバスルームがある。テレビやその他家電は何もない。

 体を売らなくても暖かい食事が出てくるそこを名残惜しいとも思っていたが、日野元アリスは厳重に閉ざされているハズの扉に手を触れる。そして当たり前のように開けた。扉の前で倒れている女性職員。

 アリスの部屋のキーを開けた瞬間、眠りについた。アリスの食事として運んできていたサンドイッチが地面に転がっている。それを見つけるとアリスは拾って無造作に齧った。



「おいしいね。いつもありがとう。おねぇーさん」



 そう言うと服をあさり、スマートフォンを取り出す。そしていくらか操作をすると、そのスマホにもアリスが使いたかったアプリが入っていた。



「みんな、本当に入れてるんだね」

『帽子屋さん』アプリを開くと音声認証を使いアリスはこう呟いた。

「白いバラを、赤く染めよう」



 アリスの声に反応して画面が切り替わる。裏モードトランプきりふだ。その画面を見てアリスは鼻歌を歌う。なんとなく自分の全身を見て乗り気のない表情をした。



「お兄ちゃんと会うのにこの格好はちょっと地味かな?」



 アリスは部屋に戻るとスーツケースを取り出す。そこから赤を基調にしたドレスを見つけるとそれに着替えた。そのまま化粧をすると、少し大人びた自分に満足する。服をその場に捨てて空のスーツケースを持ってアリスは職員が仕事をしているであろうフロントへと向かった。

 そこで薄いノートパソコンとタブレットを調達すると、収容所の入り口から外に出る。

 その時、アリスが盗んだスマホがアプリで着信される。それに出るとアリスはみるみる機嫌よさそうに笑顔になる。



「真希奈お姉様、次は本気であのお兄ちゃんやっつけていいんだよね? たった一人の私を捕まえるのにあれだけ頑張ったお兄ちゃんだからあんまり歯ごたえなさそうなんだけどね。うん、わかったよ。へぇ、イカレ帽子屋もメイドも負けたんだ。うん、えっ? お兄ちゃん以外にも『悪魔の玩具』にたどり着いたんだ。あーほんとだ。都市麻酔の解除コード調べてるよ。この人はほっておいていいんだ。じゃあ後でね」



 アリスは自分を迎えに来た自動運転の車に乗ると再び手鏡を取り出して自分を見る。自分に足りない物に気が付いた。



「王冠がないじゃん。赤の女王は王冠が必要だよね! 何処かの宝石店によって! そこで私に似合うティアラを探すから」



 アリスが車内から見える風景はそこら中で人が眠りについている姿だった。制圧型音楽兵器、都市麻酔。

 その完成度に満足したようにアリスは言う。



「白いバラならちょんぎろう」

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る