short sleep

 美洋はラーメン屋でミニラーメンとチャーハンを食べていた。美洋がラーメンとチャーハンが好きなわけではない。今回の事件解決に伴い賞金をもらった為、ジキルが高カロリーな中華料理を食べに行くという事で来たわけである。



「……美味いなこのラーメン」



 味に関しては無頓着な方である美洋がそういうので、ジキルはふっふっふと鼻で笑う。そしてスマートフォンを美洋にそれを見せた。



「このラーメン屋さんは元日本兵として戦った台湾人の親父さんが始めて今はそのお孫さんが継いでいる隠れた名店なんだよ! ボクも調べるのが大変だったよ。これはインターネットの情報じゃなくて、ラーメン屋さんに行く通達にお話しを聞いて総合的に人気があるお店としてここを選んだんだよ!」



 正直美洋からしたらそんな話はどうでも良かった。ただ単にジキルに連れられて入った店のラーメンがたまたま自分の口に合っただけ、本当にそれだけの話でしかないと思い。チャーハンを食べ終わると苦しくて動けない。



「ごちそうさま」



 美洋がそういうので満足そうに美洋を見つめるジキル、その美洋の見ている目線はテレビの液晶画面だった。



「美洋、何をご覧に?」



 美洋が見ている番組は、可憐な少女とロボットのバディが最近サイバーハント業界では一躍有名になっているという事だった。同じ年くらいでの有名人と言えば実際は美洋なんだが、彼はメディアに取り上げられる事を断り、知る人ぞ知るサイバーハント、それとは真逆でスポンサーをつける為にメディアに露出するサイバーハントも最近は多い。一世代前にはユーチューバーという古語存在したが、今やサイバーハンターこそが、子供達が一番なりたい職業ともいわれている。

 同業者に興味を持つ事はおかしくはないが、それが快活な美少女ときたらジキルは黙ってはいなかった。



「美洋はあんな女の子がいいの? ボクよりぃ?」

「は? 何を言っているんだジキルは」



 お冷を一口飲むと美洋は美少女と並び立つロボットに指先を向けた。ジキルのように人間と寸分狂いのないエルデロイドとはくらべものにならないが、彼女はそれでもオーバーテクノロジーと言って過言ではない人型の相棒ロボットを所有している。むしろ、ジキルの事をエルデロイドと知る者はいないので、この世界発のロボットと共にしているサイバーハントなのだ。



「あれ、何処のロボットなのかなと思ってね」



 美洋は自分の姉が目指していたロボットについて並々ならぬ興味があった。それを気にしての事だったのだが、可愛い女の子が映っているテレビ画面を見つめる美洋を見るのが我慢ならなかった。



「もう行くよ美洋!」

「まだ、少し苦しい」

「言い訳はダメ!」



 お金を現金で支払うと、美洋の手をジキルは繋ぐ。



「何?」

「ボクが手を引いてあげるから楽だろう? ふふっ、美洋はボクがいないとダメなんだから」

「別にジキルがいなくても僕はダメじゃない」



 美洋に冗談も忖度も通用しない。彼にとっては一番正しいと感じる事をそのままに伝える。彼の欠落を知らない者からすれば冷たくも感じるだろう。

 だが……ジキルは……



「ボク……もっと頑張るから……」

「あぁ、期待している」



 美洋の腕に抱き着くように甘えるジキル。彼らにはまた次の仕事がやってくる。すれ違ったキャスケット帽をかぶった少女と美洋の目が合う。そしてすれ違う。次はもっと自分の姉に近づける仕事であればいいなとそう思い腕を重くしているこのジキルに関してまだ何も自分は知らないんだなとふと思った。

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