3-30 はいれませんよ?

セルリアンを倒した後、木の葉をツタをかいくぐって研究所の建物まで戻ってきた。


「なるほど、これが入口ですか」


 博士は扉をコツコツと叩いたり、何かをかざすための端末部をいじったり横に引っ張って開けようとしたりと様々な方法を試したが、扉がその努力に応えることはなかった。


「ならばコカムイ、その赤いラッキービーストに聞いてみるのです」


「あ、うん。ねえ赤ボス、どうにかして開けられない?」


「マッテテ、検索スルネ」


 いつもの電子音と共に赤ボスは扉の前を、建物の周りをしばらくウロウロして、解決策を探っているようだ。その間に僕ももう一度どうにかできないか試してみたけど、やはりどうにもならない。


「扉についたこの端末も、全然反応なし、か」


「ラッキービーストに頼るとしましょう」


 まだ検索は続いている。手持ち無沙汰だ、何か話しておこう。


「建物のツタも周りのツタも、あのセルリアンが原因なのかな」


「おそらくは……ただ、今まで誰も気づかなかったのが不思議なのです」


 すると、キンシコウさんがこう言った。

「そういえば、前からこの近くに来るフレンズは少なかったですね、私たちも、見回りで少し近くに寄るだけでしたし」


「なにか、フレンズを遠ざける物でもあったのかな……」


話しているうちに検索が終わったようで、赤ボスはこちらに戻ってきた。



「赤ボス、どうだった?」


「ドウヤラ、研究所ノ電源ガ落チテイルミタイナンダ」


「電源……?」


「普段ハ屋根ノ『ソーラーパネル』デ発電シテイルヨ」


 赤ボスの話によると、屋根の覆いでソーラーパネルでの発電ができなくなった。しばらくは予備電源を使っていたらしいけど、それもとっくの昔に切れてしまったらしい。


「ソーラーパネルガ使エレバ、オヨソ一週間デ利用デキルヨウニナルヨ」


「じゃあ、そこの覆いを取ればいいんだな、任せろ」

とヒグマさんが屋根に登って覆いを取っ払ってしまった。


「じゃ、あと一週間後、ってわけか」


「ソ、ソレナンダケド……」


「何か問題でもあるのですか?」


「ココニ入ルニハ、『パークガイド以上の権限』ト『カードキー』ガ必要ナンダ」


「随分なセキュリティですね」


「その分、期待もできるってもんだよ」


 ただ、どうやって用意しようか、カードキーは探すだけだ……どこにあるか見当がつかないが。『パークガイド以上の権限』……? どこかで聞いた言葉だ、パークガイド……


「確か、かばんは『暫定パークガイド』とやらになっていたと聞きましたが」


「『暫定パークガイド』……! それだ! 赤ボス、可能なの?」


「ウン、かばんナラ、ココノセキュリティヲ解除デキル筈ダヨ」


「だったら、問題はカードキーか……」


「はて、どこにあるのでしょうか?」


 博士の疑問も当然のものだ、目星を付けるなら図書館だ、それ以外の場所にカードキーを保管している様子が想像できない。


「探すなら、図書館だね」


 だけど一応ロッジとゆきやまは探しておいても悪くはないだろう。



 赤ボスが、ソーラーパネルがしっかり稼働していることを確認した。


「さて、これからどうする?」


「これ以上ここにいても仕方ないから、僕はロッジに戻るよ」


「コカムイは私が運ぶのです、ヒグマ、お前たちは……自由にしていいのです」



 その日はそのままロッジに戻って、そのまま休むことにした。オオカミさんがまだしつこく迫ってきたけど、博士に物を言わせて静かにしてもらった。でも……オオカミさんが強引に来たからとはいえこうするのはいい気分ではなかった。





 翌日、博士と助手がいくつかファイルを持ってロッジまで飛んできた。


「博士、これは?」


「一夜かけてあの研究所に関係がありそうな資料を集めてきたのです」

「これはほんの一部ですがね」


 一つ目の表紙を見てみると、ジャパリパークの開発計画が書かれていることが分かる。それを持ち上げて一つ下のファイルを見ると、研究計画と表に書かれていた。

 なるほど、研究所に関わっていそうなものを片っ端から調べて情報を、あわよくばカードキーの場所も探し当ててしまおうという算段か。


「図書館にはあとどれくらい?」


「ざっと20はありますね」

 

「……まあ一週間あるし、ゆっくりやろうよ」




 パラパラとファイルをめくると、中ほど辺りに建築物のページを見つけた。その部分の目次にはカフェになっている建物やロッジ、図書館などの見知った建物の名前が載っていて、そこから少し下に『ジャパリパーク中央研究所 キョウシュウ支部』の名前が他の建物と分けて記されていた。


「研究所は95ページ目からか……」


 初めに概要、そして研究内容が書かれている。概要はよく見る社交辞令のようなものだったので飛ばして、研究内容。具体的に大きく分ければ『そのエリアのフレンズの生態』、これはどこの支部でも行っていただろう。そしてもう一つ、『サンドスターの性質、サンドスターの保存』という項目があった。


「性質、は分かるとして保存……?」


「何か引っかかるのですか?」


 博士が読んでいるページを覗き込んだが、難しい漢字があって読めなかったのか僕に説明を促してきた。


「保存と聞くとセルリアンの『保存と再現』について書いてあった資料を思い出すけど、文脈を見る限りサンドスターの保存を目指しているみたいなんだ」


「それが何か?」


「いや、どうやるのかな……って」


 動物由来のものに触れればフレンズが、無機物に触れればいずれセルリアンが生み出されるサンドスター、これを一体どうやって保存するというのだろう。答えが見えている気がするのだけど、あと少しというところで引っ掛かって出てこないような感覚だ。


「……後にしよう」


 考察は後にして、次のページを読み進めよう。


「……研究所のことはここまで、か」


 あくまで計画、結果について書いてあるはずもない、残りのページは今、それほど大事になることは書いていなかった。



「ところで、かばんに研究所の件は話したのですか?」


「うん、軽く説明しておいたよ」


「早めにカードキーとやらを手に入れておかねばなりません、これから更にもってくるので、何か分かったらすぐに知らせるのです」


「わかった……ところでさ」


「何ですか?」


「イヅナのことは、どうする?」


 研究所はあくまでこの島について、フレンズやセルリアンについて知りたいから調べる。ただ、イヅナのこともおろそかにしてはいけないと思う。



「……ふふふ、ようやくイヅナをとっ捕まえる覚悟が決まったのですね」

 博士は少しニヤリとして言った。


「博士!?」


「冗談なのですよ……さておき、何か行動を起こすことにしたのですか?」


「やっぱり、待つだけじゃ始まらないから」


「ですが、まずは接触をしないと話もできないのです」


 助手の言う通りだ。だからまずはイヅナと出会うためにその方法を考えなくては。


「呼んだら来てくれないかな?」


「そんな簡単に行きますかね……?」


 何か簡単でも策を講じておくべきか、策というほど大層なものはできそうにもないが。


「おびき寄せ……なんて無理か」


「あれ、集まってどうしたんですか?」


「あ、かばんちゃん……とサーバル」


 二人が外から戻ってきた、大方散歩じゃないかな。サーバルに気づくのが遅くておまけみたいになってしまったのは気にしないでほしい。


「イヅナと会うために、何かした方がいいのかなーって」


「何かする……?」


「ほら、呼ぶとかおびき寄せるとか」


「うーん、普通に呼べばいいと思いますけど」


「……そうだよね」


 その考えで悪いところもないと思うけど、博士たちは不服のようだ。 


「はあ……二人とも甘いのです」

「あのキツネが何をしてくるか分かったもんじゃないのですよ」


 その様子がおかしく思えたから少し離れて小声でかばんちゃんに話しかけた。


「ねえ、なんで博士たちはイヅナを敵視してるの?」

「分かりません、だけどイヅナさんも博士たちに冷たいな、ってところはありました」

「何かあったのかな」


「え? イヅナちゃんと博士たちって仲悪いの!?」


「さ、サーバルちゃん!?」


「…………」

 

 サーバルが反応して大きな声を出してしまった。博士たちが顔をしかめている。


「ま、まあ! 何かしたいなら、博士たちの考えを聞かせてよ」


「そうですね、おびき寄せるべきです」


「何を使って?」


「イヅナと言えど狐……つまり動物、ならば食べ物がいいのです」


「博士たちじゃあるまいし……」

「釣られるんでしょうか?」


「コカムイ、どういう意味なのですか」

「聞き捨てならないのです」


 イヅナのこととなると妙に耳ざといのはなぜだ。ともかくイヅナが引き寄せられるような食べ物なんて……なんて……


「いや、”アレ”ならあるいは……」


「何か思いついたんですか?」


「うん、赤ボス……用意してほしいものがあるんだ」


「マカセテ」


 赤ボスに、を揃えて図書館に持ってきてくれるように頼んだ。


「図書館でないといけないのですか?」


「そうだけど、任せて、食べ物に釣られるのは博士たちだけじゃないよ!」


「……今度こそ、どういう意味なのですか」



 博士にその後説教を食らうことになったが、気にすることではない。博士たちは例の『ジャパリカレーまん』を食らって黙ることになるのだから。

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