1-03 ものわすれ
「それはそうと先生! マンガの方はどんな感じですか!?」
キリンはオッドアイのフレンズに話しかけた。「それはそうと」とか言える立場ではないと思うけど、またヤギの話に戻るのは勘弁なので黙っていた。
どうやら先生と呼ばれたフレンズは漫画を描いているみたいだ。キリンが先生と呼んでいるのを見ると彼女は人気なのだろう。
「ふふ、また面白いことが起こってネタには事欠かないだろうね」
と言ってこちらに視線を向けた。
「自己紹介が遅れたね。私はタイリクオオカミだ。オオカミと呼んでくれて構わないよ」
改めて見てもオッドアイが特徴的だ。オオカミさんはすぐに覚えられそうだ。
「それと、そこにいるのがこのロッジアリツカの管理人、アリツカゲラさんだ」
「アリツカゲラです。」と軽く礼をした。
「どうも、お世話になります」とつい礼を返した。
「ところで、キミはジャパリパークの外から来たそうじゃないか」
「ああ、そうらしいですね…」
「おや、他人事みたいな言い方だね」
本当に、この時僕は他人事のように今の状況をとらえていた。
「何も覚えてなくて、実感がわかないっていうか。寝ぼけてるのかな……」
「ふむ、外の世界について聞けるいい機会だと思ったが……」
「すみません、覚えてなくて」
「いや、別の話題ができたよ」
「……?」
「外からやってきたヒトが謎の記憶喪失。……むしろこっちの方が興味深いかもね」
「そういえば、オオカミさんはどんなマンガを描いてるの?」
「見てみるかい?この原稿はまだ描きかけだが、序盤くらいなら大丈夫だ」
見てみると、どうやら探偵マンガみたいだ。所々怖い場面も描かれている。ただ文字は書かれていない。フレンズは文字は書けないのだろうか。
「”ホラー探偵ギロギロ”ってタイトルだ」
ホラー探偵、と聞くと時々入る恐ろしいコマも理由がわかる。
「ところで、キミは”見るだけで記憶を失うセルリアン”というものに興味はないかい?」
「み、見るだけで……?」
しかも記憶を失うとか今の状況にひどく合致して……まさか、
「そのセルリアンは虹色という珍しい色をしていてね、サンドスターの色によく似ているんだ」
そういえば僕を襲ったセルリアンの色は……聞いてなかった。
「物珍しさに近づいてしまうフレンズもいるらしいけど、そのセルリアンと目が合うと気を失うんだ。そして……」
「そ、そして……」
「それを見たものは少しづつ記憶をなくしてしまい、最後には自分のことすらも忘れてしまうんだ」
「…………」
「ふふ、いい顔いただき…!」
さ、最後には自分が誰かも忘れる……自分を覚えていない……それって…
「あ、作り話だから、あまり深く考えない方がいいよ」
「つ、作り話……」
一気に気が抜けて、テーブルに突っ伏してしまった。よく考えれば当たり前じゃないか。かばんちゃんの話によれば僕は昨日この島に来たばかりだ。ジャパリパークの外にはいないセルリアンの被害に遭うわけがない。オオカミさんの話し方が上手でついつい引き込まれてしまった。
「大丈夫かい……? 少し怖がらせすぎたかな、ごめんね」
「あ、そういえば」
本当にふと思い出した。こう言っては悪いけどつまらない作り話で落ち込んでいる暇はない。
「ねえかばんちゃん、さっき聞きそびれたけど『博士』って誰?」
「博士はジャパリとしょかんにいるアフリカオオコノハズクのフレンズさんです。手のワシミミズクさんといっしょに住んでいます」
つまりフクロウのフレンズってことか。博士という分には多分頭はいいはずだ。
「海にいたセルリアンとか、今までにないことが起こったので、一度博士さんたちにも相談してみようと思うんです」
「僕もついて行った方がいいよね」
「はい。コカムイさんも何か、記憶のこととか思い出す方法があるかもしれません」
「目的地はジャパリとしょかんだね、途中ゆきやまちほーとみずべちほー、しんりちほーを通るよ」
突然声が聞こえてきた。周りを見渡してみるけどそれらしいフレンズはいない。誰かが隠れているのか……?
「あ、ここです」
とかばんちゃんが手首の腕時計のようなものを指し示した。
「え、これが?」
「はじめまして、ボクはラッキービーストだよ」
「喋ってる……」
腕時計の形をしているくせにビーストとは何事だろう、どうせならラッキーウォッチと名乗ればいい、と思っていたら、表情に出ていたのか、
「元々は自分で動けるガイドロボットだったんですけど、……その、いろいろあって」とかばんちゃんからあまり説明になっていない説明が入った。
「そっかあ…まあいいや、続けて」
「わかったよ」
するとジャパリパークの地図らしきものが空中に映し出された。ホログラムといやつだろう。ハイテクだ。
「今はここのロッジにいるよ。島を反時計回りにまわってとしょかんにいくのが一番簡単なルートだよ。少し時間がかかるからから途中で休憩をとるよ」
「それで、どこで休むの?」
「ゆきやまちほーの温泉宿がおすすめだよ」
「ゆきやまちほーかぁ……」
雪山には特に思い出とかはないけど、なぜか少し懐かしいような気持ちになった。
「でも、雪山は登るのも越えるのも大変だから、バスがある方がいいよ」
バス、というとやはりサファリバスだろう。当然僕はどこから乗れるのか一切知らない。そもそも運行しているかどうかも怪しいところだ。なぜかヒトがかばんちゃんしか現れないし、ロッジの管理もフレンズだけがやっているように見える。
「で、バスはどこにあるのかな」
「もしかしたら、港の近くにまだあるかもしれません。壊れてしまいましたが、直せば何とかなるかも」
「え、かばんちゃんあのバスを探しに行くの?」
「うん、今回は自分で行くから、あった方がいいと思う」
「今回は、ってことは前にも行ったことあるんだ」
「あ…はい。一週間くらい前に料理を頼まれて、その時は博士たちが飛んで連れて行ってくれました」
「へえ、そうなんだ」
せっかくだから、いろいろ聞いてみ「じゃあ、まずはバス探しをしようか」
ラッキービーストに邪魔された。仕方ないから移動中に聞くことにしよう。
「じゃあわたしもついてく!」
ということで、かばんちゃんとサーバルと僕(とラッキービースト)でバスを探しに行くことになった。
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