1-02 おめざめ


 ……天井にシミが見える。なんとなく顔に見える部分がないか探した。

体を起こすと背中と腕と足と……とにかく全身に痛みを感じる。寝る前に何か無茶なことでもしたかな。


「……どこだろ、ここ」


 こんな部屋に見覚えはない。寝る前に何をしていたか一向に思い出せない。


「疲れてるのかな……」


 なんとなく服をあさってみると、ポケットから手帳が見つかった。裏を見てみると、そこには……


バタンッ!


「うわっ!」


突然ドアが開く音がして飛び上がってしまった。


「あ、驚かせてごめんね! 元気になった?」


 そこには大きな猫耳と尻尾のあるオレンジに近い色の髪とヒョウのような柄の服を身に着けた女の子がいた。


「……誰?」


「わたしはサーバルキャットのサーバル! あなたは?」


「僕は……コカムイ ノリアキ、…かな。その…よろしくね」


「コカムイノリアキ…って動物なの?」


「え、僕は人間だよ?」


「やっぱりそうなんだ! 外のヒトは少し長い名前なんだね!」



 外の人とか僕が人間じゃないかもと思ってたこととか色々と気になることはあるけど、今一番大事なのは……


「名前はノリアキで、コカムイっていうのは苗字だよ」


「ミョウジ? それって何?」


 やっぱり苗字知らなかったみたい。


「苗字っていうのは、なんというか……家族を表すもの、って感じかな」


「ヒトって家族にも名前があるの!? すごーい!」


 何がすごいんだろう。ヒトとして生まれた僕には人間じゃない動物の感覚はわからない。……あれ、人間じゃない?


「そういえばさっきサーバルキャットって……キミって人間じゃないの?」


「そうだよ、わたしはサーバルキャットの”フレンズ”なんだ!」


「フレンズ?」


「ええと、フレンズっていうのはね……」





 そこからサーバルにフレンズについて教えてもらった。どうやらフレンズとはこのジャパリパークにいる動物がサンドスターに触れてヒト化した生き物らしい。なんでここに来たのか覚えていないけど、おもしろそうなところだ。


「それじゃあ……あ、なんて呼べばいいのかな?」


「コカムイ、でいいよ」


「わかった!コカムイくん! よろしくね!」


本当に元気な子だ。


「そういえば、おなかすいてない?」


「あ、そういえば……空いてるかも。じゃあ、身支度してから行くよ」


「待ってるね!」


 サーバルが部屋から出ていった。そのあとでもう一度手帳の裏を見た。


"Kokamui Noriaki"


 手帳の裏に書いてあった名前を名乗ってしまったけど、本当にこれは自分のものだろうか?誰かのものだったら申し訳ないな。待たせちゃいけないし、適当に支度は済ませてご飯を食べに行こう。




 部屋を出てから気づいたけど、この建物のつくりを知らない。どこにサーバルはいるのだろうか。


「適当に探すしかないかな…」


 そんな風に適当に探していたら思ったより時間がかかり、着いてからすぐに

「もう! 遅いよコカムイくん」と言われてしまった。案内してくれればよかったのに。


 見てみると、サーバルのほかに帽子をかぶった子と目の色が左右で違うのと黄色と黒の頭の鳥?のフレンズがいた。


 帽子をかぶった子が近づいてきて自己紹介をした。


「あ、はじめまして……かばんといいます」


「…ああ、はじめまして、コカムイです。…キミは?」


「……かばん、です」


「……名前は?」


「…かばんです」



 つい何回も聞き返してしまった。なんともいえない不思議な名前で、しばらく反応に困ってしまった。そんな様子を見てオッドアイの人…じゃなくてフレンズがクスッと笑っていた。手元を見ると何か描いているみたいだ。



「珍しい名前だね、どうしてその名前になったの?」


「かばんちゃんはかばんを持ってるからだよ!」


 おもしろい冗談を聞いた。カバンを背負っている赤ちゃんなどいるものか。


「わたしが名前をつけたんだよ!」

とサーバルが付け足した。


 なんだろう、ジャパリパークというのは本当に不思議にあふれた場所なんだなあ。



「…………」



 予想外の出来事だらけでどう言葉をかければいいかわからない。すると、サーバルがまんじゅうを手渡してきた。


「はい、ジャパリまんだよ」


「…食べられるの?」


「食べられないものなんて渡さないよ!」


 というので、食べてみることにした。…おいしい。中には餡が入っているわけではなかったが、食べやすい味で、お腹も空いていたからかすぐに平らげてしまった。


「まだいっぱいあるよ!」


 とカゴごと差し出してくれたので、もう3ついただくことにした。



「ふぅ~満足……」


 満腹になって椅子で伸びていると、かばんちゃんが近づいてきた。


「あの、少しいいですか?」


「ん、どうかした?」


「コカムイさんは、ジャパリパークの外から来たんですよね、

外の世界ってどんな感じなんでしょうか?」


「外から……来た、のかな?なんか思い出せないんだ」


「覚えてないんですか!?」


「うん。ここのベッドで起きたけど、寝る前何してたか一切覚えてない」


「それってもしかして、飛ばされたせいかな…」


「飛ばされた? 僕が寝る前何してたのか知ってるの?」


「はい。昨日、港で……」





 かばんちゃんから港で起きたことを聞いた。船に乗っていたのは僕らしいけど、一切身に覚えもないし、船の運転の仕方も全く知らない。しかも話を聞く限りではセルリアンとかいう化け物に襲われていたらしい。



「……理解が追い付かないよ」


「ボクも、海にいるセルリアンは初めて見ました。なので、一度としょかんで博士たちに相談してみようと思うんです」


「博士?」


「ええ、としょかんに住んでいるフクロウの……」



バンッ!!


「うわあッ!」



 今日二度目のドアが開く大きな音でまた飛びあがってしまった。今度は一体誰だと振り向いたら、網目模様のマフラーを巻いた女の子が立っていた。


「あっ、アミメキリンさん」


アミメキリン、確かにそう見えなくもない…のか?


「はじめまして、僕は…」


「待って! 私が推理してあげる。この名探偵アミメキリンが!」


「名探偵……?」


 いきなりの展開に困惑したがアミメキリンと名乗ったフレンズは構うことなく推理を始めた。


「そのなんとも言いたげな表情…ドアの音だけで飛びあがる臆病さ………

これらの証拠から、私にはあなたが何なのかお見通しよ! あなたは……」


「………」


「あなたは……」


と繰り返したきり、フリーズしてしまった。大方推理が浮かばなかったんだろう。このまま待っても面倒だし、自分から名乗って終わらせよう。そう思って口を開いたとき、サーバルの方をチラッとみたキリンが思い出したかのようにこう言った。


「あなたは…ヤギね!」


「なんでそうなるのさ!?」


 そのあとヒトだと言って誤解を解こうとしたが、「今度こそヤギよ!」と変な意地を張っていて余計に疲れてしまった。


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