3章 第12話 エリカの事情
「ごめんなさい。突然泣き出したりして」
あの後、ルトの胸に顔を埋めながらしばらく泣いていたエリカだったが、数分もすれば落ち着いたのだろう、少しだけ恥ずかしそうにしながらルトから離れた。
「大丈夫だよ。それよりも……もしエリカさえ良ければ、何があったのか教えてくれないかな」
ルトの声に、エリカは頷くと現在に至るまでの数年間について詳しく話す。
元々小さな村に住んでいて、幸せに暮らしていた事。誕生日の日に、魔物のスタンピードが起き、村に甚大な被害が出た事。絶望に浸っていると、突然死神の声が聞こえてきた事。死神の力で魔物を虐殺したが、『自身の姿がその人が本能的に思う、最も恐怖や嫌悪感を与えるモノに変化する』という死神の呪いのせいで村の人々から拒絶され、以降も街や村に行っては拒絶されを繰り返し、その果てでルトに出会った事──。
泣き止んだとは言え、今までの苦労や絶望を洗い流すかのように大泣きした影響からか、時折詰まりながらも必死に話していく。
ルトは悲痛な表情でポツリポツリと話す彼女の話を真剣に、頷きながら聞いていた。
「だから私は助言を貰うために、私以外の死神の契約者を探しているのよ」
話の最後にエリカは、拒絶を恐れ、今まで誰にも話して来なかった、旅の目的──自身と同じ死神と契約した人間を探している事をルトへと伝える。
ルトが自身の事を死神だと知りながらも、逃げず側にいてくれる事から、事情と尋ね人について話しても問題ないのではと判断したからである。
エリカの話を最後まで聴き、現在14歳、死神と契約した時は12歳と幼いながらに、あまりにも壮絶な日々を送っている彼女に、ルトは言葉を失う。
しかし、ここで無言になっては彼女を不安にさせてしまうと思い、ゆっくりと口を開く。
「……てことは、あれ程頑なにフードを取らなかったのは……」
「そう。顔を見られた瞬間に、間違いなく拒絶されるから」
「そっか……」
何となく事情があるのだろうなとは思っていたが、まさかここまで重苦しいものだったとは考えていなかった。
もう少し早く気づいてあげていたら。
今更ではあるが、彼女の事情を聞いた後ではどうしてもそう考え、自責の念に苛まれてしまう。
「…………ねぇ、ルト」
エリカが弱々しくルトの名を呼ぶ。その声にルトはエリカの方を向き、彼女の美しい瞳と目が合う。
エリカは何か逡巡しているのだろうか、声を上げようと口を開いたり、やはりやめようかと口を閉じたりを繰り返している。
彼女が何を躊躇っているのか、ルトには何となく予想がついていた。
心優しい彼女の事だ。恐らく尋ね人──死神の捜索に、死神と知りながらも協力してくれるか、そう聞きたいのだろう。
勿論、彼女のお願いならば、ルトはうんと二つ返事で頷くつもりだ。短い期間とは言え、共に過ごした彼女は、赤の他人と見捨てる事が出来ない程大事な存在となっているからである。
──まぁ、しかし。今回はそんな事をする必要は無いのだが。
当然である。何故なら彼女の尋ね人は紛れもなく目の前に居るルトなのだから。
エリカはようやく決心がついたのだろうか、意を決した様子で声を上げようとし──それよりも早くルトが口を開いた。
「……ル、ルト。私──」
「エリカ」
「──な、何かしら」
ようやく口を開いた矢先に言葉を挟んでくるルトに、エリカは小さく動揺する。
「──尋ね人が死神と知りながらも、捜索の協力をしてくれるか」
「…………ッ!」
「違う?」
「──合ってるわ。全く、迷って迷ってやっと決心して伝えようとしたのに、それを先に言うなんて」
彼女のお得意の、とは言え実際に目にするのは初めてであるジト目をルトへと向けるエリカ。……どうやら軽い悪態をつく余裕が出てきたようである。
が、それも一転。どこか不安げな様子へと変わると、反応を待つようにルトへと視線を向ける。
「──で、どう、かしら」
「勿論、喜んで協力するよ」
「──本当!?」
「うん。……まぁでも、そんな事する必要はもう無いんだけどね」
「…………え?」
言葉の後、ルトは立ち上がると、
「……
と言う。瞬間、謎の黒い靄がルトを覆っていく。
その様子を、目をまん丸くしながら見つめるエリカ。……霊者を纏う様が、自身と重なって──
「ルト……あ、貴方が」
思わず声を溢すエリカ。そんな彼女に、ルトは纏が完了すると同時に、
「そう、僕がエリカの尋ね人。──もう1人の死神の契約者だよ」
フードの奥から白髪紅眼を覗かせながら、そう伝えるのであった。
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