3章 第5話 偶然(?)の再会
ルティアファンクラブという恐ろしい団体の存在が判明した決闘の後、ルトとルティアは2人控え室で談笑をしていた。
というのも、闘技場にはルティアファンクラブの会員──会員制なのかも定かではないが、ユリウスの発言からして恐らくそういった制度はある筈である──が多く存在しているのである。
そんな彼らがゾロゾロと家路に着いている中で、ルトとルティアが登場すれば、決闘の結果により直接絡んでくる事はなくとも、何とも言えない視線が向けられる事は想像に難くない。
別段目立つのが好きでない、ましてやルトにとってはその視線が好意的でないとなれば、避けられるのであれば避けたい所で。
そういった経緯により、現在2人は控え室に居るのである。
とは言え、既に戦闘終了から30分は経過している。
また、おおよそ皆闘技場から離れたのだろう、外から声が聴こえる事も無くなった為、恐らくそろそろ外に出ても問題ない筈だ。
そう判断した2人は談笑をやめると、席を立ち、普段よりは若干浮き足だった様相で控え室を離れ、周囲に人が居ないのを見える範囲で確認した後、唯一の出入口である闘技場正面の門口から外へと出た。
──と。
「…………ん?」
周囲に人影が殆ど見えない中、闘技場の正面から見て入口の左側、外へと出たルト達からすれば右方に。
建物へと背中を預ける形で、1人ポツンと立ち尽くすローブを被った小型な人の姿があった。
一見すれば、何とも不気味な存在。
しかし、ルトにはそのシルエットに見覚えがあった。
「あれ? エリカ?」
まさかこんな場所で再会するとも思わず、鳩が豆鉄砲を食らったように目をパチパチとさせるルト。
対しエリカも突然の声に驚いたのだろう、身体をピクリと震わせた後、顔を上げ、ルトの姿を目にすると、
「……あら、ルトじゃない。久しぶりね」
一瞬驚きから身体を硬直させた後、闘技場の壁面から背を離すと、ルトの方へ向き直り、努めて冷静な声音で呟いた。
「どうしたの? こんな所で、浮かない顔して」
ルトからすれば、学園生でもないエリカが、学園内でどこか落ち込んだ様相である事はある意味では異常なことであった。
しかし、勿論エリカには学園に居る理由がある訳で。
「いえ、会いたい人と遂に会える予定だったのだけど、上手くいかなかっただけよ」
言って、フードの下で溜息を吐くエリカ。
ルトは悲しげに顔を曇らせると、
「あー、以前話していた人、まだ会えていないんだね」
「ええ、そうなの。……ところで、ルトの横に居る綺麗な人が前言ってた友人?」
ルトの言葉に一度頷いた後、エリカの視線はルトと並び立つルティアの方へと向く。
「うん、紹介するよ。彼女がルティアさん」
「ルティア・ティフィラムですわ。よろしくお願いします」
「……貴方も中々隅に置けないわね」
ルティアが想像を絶する程に美人であった事もあり、エリカは「こんな超絶美人と友人なんて」と、ルトに半目を向ける。
しかし、残念ながら視線を向けた相手はそういうのに鋭いようでいて案外鈍いルトであり、
「? ……えっと、それで彼女が」
ルトは小さく首を傾げた後、特にツッコミを入れる事なく手をエリカへと向ける。
そんなルトに多少の呆れを見せながら、しかしそれを表に出す事なく、
「エリカよ。よろしく」
エリカは穏やかな声を発した。
対しルティアは、フードを被り顔を隠している事に疑問を抱きながらも、ルトの知り合いならば悪い人では無いだろうと考え、
「よろしくお願いしますわ!」
と言い、柔らかい笑みを浮かべた。
◇
その後、多少のぎこちなさはありながらも会話をしていた3人であったが、ここでルティアがずっと気になっていたとでも言いたげに小さく口を開く。
「……ところで、お二人はどういったご関係ですの?」
ルティアの問いに、ルトはハッとして、
「あー、そっか。詳しくは話してなかったっけ。ほら、以前待ち合わせに遅れた時に、道案内をしていたって話をしたよね。……あの時の女の子が、彼女、エリカなんだ」
「あぁ、あの時の!」
柔らかく手を合わせ、ルティアが納得のいった表情になる。
「あの時は凄く助かったわ」
うんと頷き、エリカが呟く。
「……けど、今の感じを見るに──」
「──えぇ、何の手がかりも得られなかったわ」
エリカが嘆息をもらし、
「そっか……」
その事実にルトも表情を暗いものにする。
そんな中、事情を知らないルティアは、小さく首を傾げると、
「エリカさんは何か探し物をしてらっしゃいますの?」
「いえ、探してるのは人よ。助言を貰いたいの」
「助言……ですか?」
人を探し助言を貰う。
その行動があまりピンとこなかったのだろう、一瞬言葉を詰まらせるルティア。
対し、エリカは、ルティアの反応も当然かと思いつつ、
「ええ、詳しい事は言えないのだけれど」
しかし詳細を話す訳にはいかなかった為、すぐにそう言葉を続けた。
……と。
「「…………」」
……ここで訪れる静寂。
当然だろう。何故ならばルティアとエリカは初対面であり、かつ双方どちらかと言えば口下手な方なのだ。
何かしら情報を持っているのならばまだしも、謂わば裸一貫な状態で滞りなく話を続けろというのは非常に酷な事だ。
……しかし、この場にはルトも居るはずである。
双方を知る彼が、先程までのように会話に参加していればシンとする事はなかったのだが。
「ルトさん……?」
「…………?」
思わず声を掛けるルティアと、首を傾げるエリカ。
そんな2人の視線の先で……ルトは顎に手をやり1人思案していた。
が、すぐに個人的に結論を導いたのだろう、一度うんと頷くと、
「……ねぇ、エリカ。実は来週から夏季休暇でさ、空き時間が増えるんだ。それでもしよかったらだけど、その人探し……僕も手伝おうか?」
「……え」
思わぬ言葉に、エリカが小さく驚きの声を漏らす。
「誰を探してるのかはわからないし、この街に居るのかもわからないけど。ただもし居るとするのならば流石にこの広大な街を1人で探すのは骨が折れる作業だと思うんだ。……だから、手伝おうかなって思ってさ」
ルトの提案に、エリカは多少の動揺の色を見せながら、
「……気持ちは、嬉しいのだけど、その、流石に貴方にメリットが無さすぎるわ」
「メリット……か」
手伝う事の利点は何か考え、
「……えっと、尋ね人が見つかったらエリカが喜ぶ……とか?」
「それのどこが貴方のメリットなのよ……」
曖昧な笑みのまま首を傾げるルトに、エリカは呆れた様に半目を作る。
そんなエリカの視線に晒されながら、ルトは大真面目に、
「いや、知り合いが自分の行動で喜んでくれたら、そりゃ僕も嬉しいし」
「……はぁ。ルト、貴方相変わらずのお人好しね」
友人との約束よりも道案内を優先したり、今度は特にメリットも無く人探しを手伝うと言いだしたり。
そのあまりの人の良さに、エリカは小さく息を吐き、ルティアはいつもの事で慣れもあるのだろう、流石ルトさんとでも言いたげに、ニコニコとした笑みを浮かべる。
対しルトは、
「そうかなぁ。別に普通だと思うけど……」
「いいえ、とっってもお人好しよ。全く……」
あいも変わらず呆れた表情のエリカ。
しかし、この時フードに隠れた彼女の表情にはどこか喜色が滲んでいたのであった。
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