3章 第4話 決闘の陰で少女は躍る
ルトとギオが決闘をしている最中。
アルデバード学園の敷地内に、1人の少女の姿があった。
フードを深く被り、俯き気味に歩く華奢な少女──エリカである。
別段学園生でも無ければ、関係者でもない彼女。
では一体何故、学園内に居るのか。
簡単な事だ。彼女が訪れる理由など一つしかない。
……そう、それはとある噂を耳にしたからである。
──アルデバード学園に死神の契約者がいる。
エリカが自身の忌々しい呪いを解呪する為に、唯一の希望として存在する、自身と同じ死神という存在。
噂を耳にしては赴き、しかし結局出会えずにいたその存在が、もしかしたら一抹の希望かもしれないが、ここアルデバード学園に居るというのである。
だからこそ、エリカは学園内を歩いているのだ。
しかし、そんな彼女の表情は──フードと呪いのダブルパンチで誰にも見えていないが──あまり芳しくなかった。
というのも、
「……まさか、テスト期間なんて」
そう。学園は現在テスト期間なのだ。
テスト期間となれば、当然早々に帰宅する人間もおり、必然的に学園内を歩く学生の姿も少なくなる。
そんなタイミングで学園を訪れてしまったのだ。
これでは、目的の存在と出会える可能性が低くなってしまう。
……どうしようかしら。
この様子では、明日以降も大して収穫無しで終わってしまう。
そしてもし、テスト期間が終了すれば、待っているのは夏休み。
余計に出会える可能性が無くなってしまう。
……いちかばちか、聴き込みを。
そう考え、躊躇いが生まれる。
フードを被った怪しい少女が、死神を捜している。
そんなのあまりにも不審であるし、実際以前死神について聞いた際に、フードを取る様に言われた事もある。
だからこそ、直接居場所を問うのはどうも躊躇ってしまう。
さて、どうしたものか。
歩き、頭を悩ませていると……ここで、謎の騒々しい声がエリカの耳に届いた。
「……何かしら──闘技場?」
思わずそちらへと目を向けると、そこには年季の入った闘技場が見えた。
テスト期間であるこの時期に、謎の盛り上がりを見せる闘技場。
そのアンバランスさに、何となく不気味さを覚えながらも、しかしもしあの場に学園生が沢山居るのならば、何かしら情報を得られるかもしれないと、そう考えたエリカは身体の向きを変え、闘技場の方へと歩いて行った。
一歩、また一歩と近づく毎に大きくなる喧騒。
その音に思わず顔を顰めながらも、ゆっくりと近づいていく。
そして、遂に闘技場へと到着すると、エリカは中に入り、階段を上がる。
次いで、異様な盛り上がり──ただし、歓声というよりは悲鳴に近いか──を見せる観客席へと辿り着き、学生の数や彼らの反応に驚きを感じつつ、ふと視線を決闘を行っている2人の方へと向ける……と。
「──ッ!」
そこには、ローブに身を包み、時折白髪を覗かせながら纏術師を圧倒している存在が居て──
「ボロボロのローブに、鋭利な鎌。ローブから覗く白髪に、あの何とも言えない不気味なオーラ……見つけた。遂に見つけた」
エリカは驚きと喜びの入り混じった表情のまま、呟いた。
──早く、接触を図らなきゃ。
すぐにそちらへと思考が向くが、流石に決闘を行っている今近づくのは、幾ら念願の存在と出会えるとは言っても、避けねばならぬ事だろう。
幸いにも、眼下で行われている決闘はもうすぐ終わりそうであった。
ならば、早めにこの場を離れ、入り口で待っていた方が得策と言えるのではないか。
そう考えたエリカは、すぐに身を翻すと、階段を降りて行った。
──やっと、もう1人の死神と出会える。
ただただそれだけを考え、胸を躍らせながら。
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