第18話 アロンの力と不穏な動き
放課後、ルト達3人は食堂へ集合すると、草原へ向かう。
道中の3人は終始穏やかで楽しげであり、どこにも緊迫した様子は見られなかった。
というのも、ここ数日は最早パトロールなど要らない程に、草原には澄んだ空気が流れているのである。
「
「平和ってこういうのを言うんだろうなぁ」
ルティアの発言に、アロンが腕を組みウンウンと頷く。
ルトは隣歩くそんな2人の姿を目に収め、同意する様に顔に喜色を浮かべると、視線を前方へと戻す。
晴れ渡る空に、一面に広がる草原。所々にはゴブリンやコバルトのような下位ランクのモンスターが点々としている。
魔物が存在するのに平和とは何ごとかと思うかもしれないが、成る程確かにいつも通りの異変の無い草原の様子からは、どこか静謐(せいひつ)さが感じられた。
と、そんなこんなで談笑を交えながら並び歩を進めていると、ここで話題がアロンについてのものとなった。
ふと思い出したかのように、ルトが口を開く。
「アロンって、何属性の技が得意なの?」
「あれ、そういや言ってなかったか」
「確かに、今まで質問した事ありませんでしたね」
言って3人が笑う。
一拍開け、アロンは手のひらを上に向け、そこに小さな空気の渦を作ると、
「一番は風かね。次いで、火と水」
「おおー! てことは移動系使えるんだ!」
「おう! 広範囲で狩りができるから、案外便利だぜ!」
言って、アロンがニッと笑う。
「良いですね! 汎用性の高い、素晴らしい属性ですわ!」
手を合わせルティアが笑った。
魔術師にはそれぞれに適性のある属性というものが存在する。
基本的には、火、水、風、土の4つの属性の内、1つの属性について適性が現れるのだが、ごく稀に雷や光、闇といった特殊な属性に適性のある者が生まれたり、複数の属性に適性を持った者が現れたりするのである。
因みにアロンが適性を持つ風については、汎用性が高く、移動速度をアップさせたり、そのまま攻撃や回避に利用できたりするが、反面、派手さはなく使い手の腕や工夫次第では良くも悪くもなる為、扱いにくい属性であるとも言える。
「だろ? だけど使い手の俺がまだまだなせいか、序列戦だと全く勝てねーんだよな」
言って肩を落とす。
「その為の模擬戦だよ。せっかくの機会なんだし、ここで色々な戦い方を学んで、お互い序列戦で勝てるようになろうよ」
「だな。……ルティアちゃんにとっても退屈しないような、身になるような戦いをしなきゃ」
アロンの発言にルトがうんと頷く。
「私はお二人とこうして放課後に予定を組めているだけで、十分ですわ」
「いや、これは俺たちの気分の問題なんだよ。どうせやるなら、ルティアちゃんにも……ってな」
「うん、そうだね。やって良かったって戦闘面でも思って貰えるようにしたいよ」
「ルトさん、アロンさん……」
言って、ルティアがどこか感激したかのような表情を浮かべると、胸の前でグッと握り拳を作り、言葉を続けた。
「私も、全力で模擬戦に取り組みますわ!」
「全力でやってくれるのは嬉しいけど、僕達を殺さないようにお願いね!」
「もちろんですわ!」
言って、やる気に満ちた表情を浮かべるルティア。
そんな彼女の姿に、ルトとアロンは思わず笑ってしまうのだった。
その後、いつも通りの場所で模擬戦が行われた。
議論を交えたりしながら1人2戦ずつ行い、ルティアが2勝、アロンが1勝、そしてルトが2人に敗れ0勝という結果であった。
アロン戦ではルトは善戦をしたが、やはり範囲攻撃に弱い事に気付かれ、最終的に敗北となってしまう。
変わらずルトの課題は対範囲攻撃だと言えた。
……何はともあれ、アロンも交えた初の模擬戦は、特にこれといった問題が起こるでもなく、ごく平和に終わった。
帰路に着いた際も、当然何も問題なく、終始穏やかであった。
──暗躍するとある存在へと、"裏"へと目を向けなければ。
そう。実はこの時、密かに裏で悪が動き出していたのだが……並び歩くルト達は、誰もそれに気付かないのであった。
◇
どこか息苦しさを覚えてしまう程暗く、不気味な程に静まり返った陰気臭い場所に、1人の男の姿があった。
何かに熱中しているのだろうか。
息をする事すら忘れ、食い入るように一点を見つめている。
しかし、男も一人間である以上、体内に酸素を取り込まなくては死んでしまう。
当然身体は死を望んでいない為か、次第に男を息苦しさが襲う。
それがある一定ラインを超えた辺りで、男は遂に荒々しく息を吐いた。
「……ハァハァ、ハハ、ハァハァ」
呼気を荒げ、しかしその口元には笑みを浮かべている。
男はフラフラとまるで幽霊のように、暗闇の中を踊るが如く動き回ると、天を見上げ、カッと目を見開いた。
「できた、できた……できたぞ! 完成だ! 完成だ! ……これを使えば、間違いなく、アル様の悲願が達成する!」
言って、アハ、アハハと不気味な笑い声を響かせる。
周囲には誰もおらず、ただ笑い声だけが反響する。
その様は、悪魔ですら逃げ出すのではないか。そう思わせる程に、酷く薄気味悪いものであった。
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