第12話 自己紹介
「さて、じゃあまずは自己紹介でもしようか」
ルティアが席についてすぐに、この中で唯一2人と親交のあるルトが、そう話しかけた。
「良いですね。そう致しましょう!」
「お、おおおう」
アロンのあまりの緊張具合に、ルトは苦笑いを浮かべる。
「えっと、じゃあ僕から。2人とも知ってると思うけど、ルトです。改めてよろしくね」
楽しげに笑うルティアが拍手をし、アロンもそれに続く。
そして一拍開け、アロンの様子を伺うと、ルティアは、では次は私がと話を続けた。
「ルティア・ティフィラムと申します。趣味は読書に、剣術ですわ。よろしくお願いします」
「え、剣術が趣味なの?」
「はい。実は幼少の頃から剣というものに憧れがありまして。元々剣術を嗜んでいた母によく色々と教わっていますわ」
あれだけの纏術を使えて、剣術も習っているのかと、ルトは目を丸くする。
アロンも、どこか驚いた様子であった。
「今度剣さばきを見せてほしいな」
「えっと……人にお見せできる程大層な技術は持っていませんが……わかりました。また今度お見せ致しますね」
「ありがとう。楽しみにしてるよ」
「はい!」
と、ここでルティアの自己紹介の途中だという事を思い出したルトは、どこか申し訳なさげに、
「あ、話の流れを断ってごめんね。……改めてよろしくね、ルティアさん」
「はい、よろしくお願いします」
ルトが拍手をし、アロンがそれに続く。
そして再び一拍開け、2人の視線がアロンへと向いた。
緊張からか、汗が凄かった。
「だ、大丈夫ですか?」
ルティアが様子のおかしいアロンを気遣い、彼の方を見ながら話しかける。
アロンは、ビクッと反応すると、
「は、はい! 全く問題ございません!」
と言った。全く大丈夫そうに見えなかった。
しかし、ここで流れを止めては迷惑がかかると思ったのだろう。テンパりながらも、はっきりとした声音で、
「アロンです。魔術師やってます! よろしくお願いします!」
「よろしくお願いします、アロンさん」
言ってルティアが微笑む。
「よ、よよよろしくお願いします!」
「…………」
流石にこのままだとアロンがやばいと思ったルトは、苦笑いを浮かべながら彼の方へと視線を向けた。
「……えっと、アロンちょっと緊張し過ぎじゃないかな?」
アロンは、ルトの方に目をやると、言葉を捲し立てる。
「だってよ! 目の前にあのルティアちゃんが居るんだぜ!? 一度は話したい女子ランキング1位のあのルティアちゃんが!」
「何そのランキング!?」
言いながらも、少し気になったルト。当の本人であるルティアは、よくわからなかったのか、首を傾げている。
「知らん! 何か噂で流れてきた!」
「信憑性が薄い!」
まぁ、実際ルティアが1位になるだろうとはルトも思ったが。
「……とにかくよ、ルティアちゃんの前で緊張するなって方が無理だわ! 男子の憧れの的だぞ。……てか、逆にルトは何でそんなに落ちついてるんだよ! お前もテンパれや!」
「いや、そりゃ初めて会うわけではないし。僕も初めて会った時は、アロンと同じような感じだったよ」
「……? ルトさんはごく普通に話しかけてくれましたわ」
「ルティアさん!? いやいや! 圧倒されて感情があまり表に出なかっただけで、実は物凄く緊張してたからね!」
何度も会った今でさえも、やはり内心少し緊張しているぐらいだ。
「とにかく! これは並の男子なら仕方がない緊張なんだよ、ルト!」
「う、うん。わかったよ、アロン。ゆっくりと慣れていこう」
ルトは普段のアロンとの違いから、彼が心から緊張している事を感じ、どこか優しげに笑った。
と、ここで。一連の話をニコニコと聞いていたルティアが、その表情のままに、コクリと頭を横に傾けると、頭上にハテナを浮かべる。
「……えっと、どうしてアロンさんは私と話す時にそこまで緊張するのでしょうか?」
「えぇ!? 俺、今言わないっけ!?」
思わずアロンが声を漏らす。
ルトは、ああまたかと思いつつ、アロンへ手招きすると、苦笑いを浮かべながら小声で話した。
「何かルティアさんってさ、自分が人気者って自覚がないみたいなんだ」
「まじで!? いつもあれだけギャラリー集めたり、どこに行っても視線を向けられるのに!?」
実際毎度あれだけ騒ぎになるのだ。普通ならば自覚していておかしくないだろう。
「うん。だから、人気ランキングがどうこうとか、あまり理解できないみたい」
「……やっぱ大物だな、ルティアちゃん」
「うん、大物だね」
「……どうかなさいましたか?」
「「いや、なんでもないよ!」」
「…………?」
再びルティアがハテナを浮かべる。
そんなある意味で純粋な彼女に、ルトとアロンはそのままの君で居てと、心の内に思った。
「……っと、そろそろ食べないと時間が無くなっちゃうね」
「あ、そうですわ! では、いただきましょうか」
言って、ルティアがバスケットに手をかける。
その様子を、ルトとアロンはちらりと見た。
彼女は上流階級の人間だ。さぁ果たして、どれ程豪華絢爛な弁当が出てくるのかと思いながら。
ルティアがバスケットを開く。そして中に手を入れると、食べやすい大きさの、どこか暖かみのあるサンドイッチが出てきた。
「…………!」
思わずルトが反応する。
「……どうかなさいましたか?」
サンドイッチ片手に、ルティアが首を傾げる。
「いや、ごめん。その、美味しそうなサンドイッチだなと思って」
正確には思っていた弁当とは違った事に反応をしたのだが、それをそのまま口にするのは良くないとルトは思った。
しかし実際、ルティアが手に持つサンドイッチが具沢山でとても美味しそうだと思ったのは紛う事なき事実であった。
と、そんなルトの言葉を受け、ルティアはどこか嬉しそうに微笑むと、
「ふふっ。いつも私のお弁当は、うちの母が作ってくださいますの。とても美味しいんですわよ」
一拍開け、
「……もしよかったら、お一つどうですか?」
そう言ってルトとアロンの顔を見る。
とても魅力的な提案であった。
しかしルトは優しく笑うと、
「気持ちは嬉しいけど、遠慮しておくよ。……だって、僕たちが貰ったら、ルティアさんの食べる物が無くなっちゃうでしょ?」
バスケットのサイズを見るに、精々サンドイッチ2つが限界だろう。
アロンも、これには強く頷き、
「めっちゃ食べたいけど、それでルティアちゃんの食べる物が無くなっちゃうのは、やだな」
言って、未だ緊張はあるのだろう、ぎこちなく笑った。
その2人の言葉を受け、ルティアは少し残念そうに、
「……そうですね。では、また今度食事を共に出来る時がございましたら、その時は」
「うん、頂くよ」
「だな」
言って、2人が笑う。
対しルティアは、ふふっと楽しそうに微笑んだ。
その後、3人は食事を始めた。
序盤はルトとルティアが会話をし、アロンが時折そこへ入るという感じであったが、終盤にはアロンも緊張がマシになったのだろう、スムーズに会話に参加していた。
そんなこんなであっという間に時間が過ぎ、昼休み終了10分前。
と、ここでアロンが慌てて立ち上がった。
何でも、次の教室が遠いのを忘れていたらしい。
荷物をまとめ、2人へと一言断りを入れる。
そして、「またな!」と言うと、教室へと走っていった。
「行ってしまいました」
「相変わらず慌ただしいな」
言ってルトがアハハと笑う。
そして一拍開けると、
「さて、じゃあ僕たちもそろそろ片付けするか」
「はい、そうしましょうか」
言って、2人は片付けをした。
そして別れようとして……そこでルティアがあっと声を上げた。
「そうでした。……ルトさん、本日の午後はお忙しいでしょうか」
「いや、大丈夫だよ」
「本当ですか! でしたら、講義終了後に一度こちらに来ていただけませんか?」
言ってルティアが先程座っていた席を指す。
「ここ? うん、わかった」
「よろしくお願いします。では、ルトさん。午後の講義も頑張りましょうね」
「うん、頑張ろうね」
その言葉の後、ルティアは控えめに手を振りながら、食堂を離れていく。
ルトはそんなルティアの姿を目に収めながら、先程の会話を思い出し、フフッと笑うと、どこか楽しげに次の講義へと向かった。
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