魔王様の特等席
蒼羽咲
第0話
「もし、願いが叶うならば・・・」
鬱蒼と生い茂る草木が揺れる。
赤い月が
( 紅月に不思議な魔力があるのなら・・ )
ゆっくりと掌を赤い月へと翳す。
「ずっと・・・我が傍に、ただ傍にいてくれる者を・・・」
赤い月を握りつぶすように拳を作る。
切望するその眼差しは、怪しく悲しく揺れる。
「ただそれだけでいい・・他には何も望まん、だから!」
その者の姿が陰っていく。
月が雲へと隠れていく。
光が失っていく。
そして、
絶望感がその者を埋め尽くしていく・・・
「やはり、叶わぬか・・・」
がくりと肩を落とし、その場を立ち去ろうとした、その足を止める。
「・・・?」
森が騒がしい。
夜中だというのに、どうしたことかと森へと足を向ける。
この森は光が入らず『夜の森』と呼ばれているような場所。
昼間でも魔物がうろつくような場所で、とても危険な場所だ。
たまにこの森の珍しいキノコや薬剤用の植物を求めて入ってくる者はいるが、魔物が獰猛化する極めて危険な夜中に入ろうという物好きはいない。
一体何が起きているのか?
騒がしい気配のする場所へと向かう。
「この先か・・、11、16・・21匹」
魔犬の気配と数を読む。
やけに数が多い。
大きな獲物でも、普通は5、6匹程度しか集まらない。
「まさか・・いやしかし・・」
魔犬は森の生き物を食すが、小さい獲物程度では集まってきたりはしない。
集まるとすれば、大きい獲物の時、または魔犬の一番の好物、『人』がいる時だ。
これだけ集まっているということは、魔犬の大好物である『人』がそこにいる可能性が高い。
だが、なぜ、こんな夜中に?
(もしや・・・)
願いを聞き届けてくれたのだろうか?
ドクン・・ドクン・・ドクン・・・
高鳴る鼓動。
(本当に期待していいのか?)
掌が汗ばむ。
目の前に生い茂る草。
その先に・・・
「!」
微かに感じる人の気配。
(本当に・・・本当に・・・?)
高揚感が体を震わせる。
目の前の生い茂る草を、その震える手で逸る思いを落ち着かせるように、ゆっくりと払い除ける。
(どうか、どうか!)
恐る恐る見渡す。
魔犬の見る先を目で辿る。
ドクン・・ドクン・・ドクン・・
一瞬の目の動きのはずが、スローモーションのようにやけに遅く感じる。
この先に居るのは、獣か人か?
(頼む!どうか・・・)
その瞳が一点へ止まり、大きく目を見開かせた。
赤い月の光が、紅色にそのモノを照らし出す。
その瞳には、紛れもなく『人』である、女性を映し出していた。
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