第3話
窓から差し込む朝日に目が覚めるも、昨日の筋肉痛が癒えてない。
カーテンを閉め再び布団に潜り込むも、腹の虫が餌がほしいと訴える。
『身体を休めるにしてもしっかり食べないと、力がつかないよ』
憎らしいほど爽やかな笑顔でカストが話す。
昨日は結局、痛む筋肉痛に耐えながら普段の3倍もの時間を掛けて宿まで戻った。
当然夕食を食べる気力もなく、布団に潜り込み今に至る。
いったい誰のせいだと文句を言いたいが、考えてみればアデルが悪い。中途半端な回復魔法も、本心から私のためだと言う思いが伝わるだけに強く責めれない。
プカプカと中に浮かびながら未だ眠っているアデルに向けて枕を投げるが、枕は素通りし花瓶を倒した。
花瓶の始末をつけたあと、フラフラと食堂に下りる。
「おはようノエミちゃん、昨日は遅かったみたいね?心配したのよ。」
食堂の入り口でそう声をかけてくれた、はち切れそうなエプロンを身に纏うふくよかな女性はこの宿の女将さんで、私と歳の変わらない娘さんを無くしていることもあって、我が子のように可愛がってくれている。
「ごめんね女将さん、ちょっと張り切りすぎちゃってね。それでまあ、2・3日ゆっくりしようと思うから気にしないでね」
そんな話をしながら、出された軽めの朝食を完食すると布団に潜り込み惰眠をむさぼる。
そんな堕落的な生活が5日ほど続いた。
「流石にそろそろ仕事しないとまずいなぁ」
あれから身体の痛みは2日ほどで取れたのだが、助けた彼女達の事が億劫で、更に3日ほど部屋に引き篭もっていた。
女将さんの好意で宿泊費はかなり安くしてもらっているので、薬草取りだけでもなんとか暮らしていけるのだが、いい加減仕事をしないとその格安代金すらも払えなくなる。
気は進まないが、せめてこの前採った薬草だけでも現金に替えようと、重い腰を上げる。
「アデカス、出掛けるよ〜」
この5日間、飽きる事なく口論を続けている二人に声をかける。
最近気づいたのだが、口論と言っても主に食って掛かるのはカストの方で、アデルは基本そんなカストをからかっているだけだった。
それでもまぁ、よくも飽きずに続けられるなと感心していたら、目の前にアデルが立ち塞がる。
『ノエミ、お前最近俺の事舐めてないか?』
そう言いながら細められた目に射抜かれて、全身に悪寒が走る。
「な、舐めてへんけどね、毎日毎日飽きもせんとカストをからかうアデル見てたら、無意味に怖がるとことは出来ひんよ」
アデルから沸き立つ殺気に多少の気後れを感じながらも、そんな返しができる程度には慣れていた。
それこそ初めはビビりまくったよ。
なんと言っても突然現れた二人の幽体が、子供でも知ってるこの世界の創世神話に出てくる主役の名を名乗り、その上、初級冒険者程度の私が感じれる程の圧倒的な存在感を放つのだから、疑う事余地もない。
『ハハッ、いい女だなノエミ。見かけや名前に迷わないその感じ、俺は好きだぜ。』
威圧を解いたアデルは打って変わってご機嫌になる。
『その言い方だとノエミ。些か僕が救われない感じがするが、どうなんだい?』
すかさずカストがアデルを押しのけ前に来る。
「なに?カストも怖がられたいの?」
『違う、そうじゃ無い。こう、偉大な勇者に対して敬意とかそういったものだよ』
カストはそのまま、右手を眉間に、左手を真っ直ぐ横に伸ばしてポーズをとる。
「うん、、、、その揺るぎ無い自信と正義感には尊敬を覚えるけど、、、、、」
『けど?』
「私には少し重いかな。あと、勇者が自分の事偉大とか言ったら安っぽく見えるからやめたほうがいいよ?」
気絶する様に脱力して膝をつくカストを見て、アデルが爆笑している。
少し言い過ぎたかとも思ったが、幽体のこいつ等には重力も床も関係ない、このポーズも技の一つ何だろうと考えたら、同情する気が失せた。
そんなくだらないやり取りを終え、宿を出てギルドに向かう。
ドキドキしながらそ~と扉を開けて、そのまま隠れるように薬草買い取りのカウンターに向う。
「あら、ノエミさん。お久しぶりですね」
かけられた職員の女性の声にビクッとして、思わず「し〜」と指を立てる。
「?」
「いや、ごめんね。ちょっと頭痛いから声落としてもらえるかな?」
彼女の声が特別大きい訳ではない。ただ私がビクビクしてるだけなので、そんな言い訳を並べてみる。
「あらあら、まだ若いんですからお酒は程々にね」
二日酔いと勘違いされている様だが、今はそれでいい。適当に話を合わせながら、薬草の買い取りをお願いした。
代金を受け取って財布にしまう。
あとはギルドを出るだけだと、そろりそろりと出口に向う。
ノブに手を掛け扉を開く。
(乗り切っ、、、、、)
「ノエミ!探してたんだちょっと上まで来てくれ」
今度こそ間違うことのない大音量、ホール全体に響き渡る声で呼び止められ、聴こえないふりも難しい、、、、、それでもと思い、半歩踏み出し掛けた時。
「ノエミ!」
再び呼び止められた。
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