家出少女が魔王と勇者に取り憑かれて振り回される話
不和由良
第1話
『ノエミ、いつまでこんな事を続ける気だよ。俺様の力を使えば富も名誉も思うままだろうが』
私の横で元魔王アデルが腕を組み愚痴をこぼす。
この男は、無限に近い魔力と山をも消しさる魔法を使い世界に君臨していたらしい。
『構うなノエミ、借り物の力で救えるほど世界は甘くない。確実に日々続ける鍛錬にこそ、正義が宿るんだ』
その横に立つ元勇者カストがアデルを押しのける。
この男は、無限に近い体力と山をも切り裂く腕力で世界を取り戻すため戦ったそうだ。
二人は肉体が朽ちて尚戦い続けていた。
迷惑な話だと思ったが、二人の幽体という存在はレイスなどのゴースト系の魔物と違い、別の次元に存在しているので、私の暮らす世界に影響を及ぼすことは出来ないらしい。
そんな5000年戦い続けた二人が、私の横で口喧嘩にとどまっているのは何故かというと、私に取り憑いた事で二人の魂は私の魂と融合し、どちらかの魂が消えれば私の魂も消えるんだという。
魔王にとって私は5000年で初めて出会えた貴重な存在だそうで、私を使い現世への復帰を狙っている。
勇者にとっては魔王を滅ぼすには千載一遇のチャスらしいが、私を犠牲にするのは彼の正義が許さないらしく、この点に関してだけは勇者の正義に感謝する。
私にとってこの二人は邪魔で仕方がないが、神殿でも祓うことが出来なかったので渋々受け入れている。
因みに私魂が滅んでも二人の魂が消えることはないらしい、不公平だと文句を言ったら魂の格が違うと一蹴された。
「あんなぁ、何度も言うけど私は目立ちたくないの。富も名誉も要らんし世界も救わへん。毎日毎日やめてくれへんかなぁ、、、、、」
この二人に取り憑かれてから1ヶ月がたったが、私は変わらず冒険者の初級クエストである薬草集めを続けている。
私には前世の記憶が今もなお色濃く残る。とは言え、10歳の時に病が発症し15歳で他界するまで病院の中ですごした私に、この世界で活かせる経験があるわけもなく、更には戦闘の才能も無いためにこれしかできる仕事がないのだが、辛うじて薬草集めの才能はあったようで日々なんとか暮らせてる。
こんな私でも記録上は一応貴族の娘なのだが現在家出中で目立つ行為はしたくない。
貴族といっても所領もない貧乏貴族で、私は3人の兄と3人の姉を持つ末っ子で、当然まともな縁談など期待できるはずもなく、幸か不幸か容姿だけは優れていたらしく、15歳の誕生日に親よりも年上の上級貴族の妾に成ることが決定される。
前世の寿命を無事に迎えた喜びもつかの間。過去現在通して、初恋すら知らない私は地獄に落とされた。
その話を父から聞かされた夜、私は髪を切り、名を捨てると書き置きを残し家を出た。
「よしこんなもんかな。」
袋一杯に摘み取った薬草を担ぎ街に戻ろうと足を進めたとき、遠くから悲鳴が聞こえた。
『『ノエミ悲鳴だ!直に向うぞ!!』』
この一ヶ月間、飽きることなく対立し合っていた二人の声が初めて揃う。
カストの目は使命感に燃えていて、アデルの目は期待に輝いていた。
「行かへんよ、あっちは森の奥やん。私が行けるはずないやろ。」
今私がいるのは森の手前にある開けた林で、街道にも近いため魔物は殆ど出ないし出ても弱い魔物だけだが、声のした方向はこの辺りでも一番深い森で初級冒険者が足を踏み入れて良い場所ではない。
『なんてことを言うんだ、人が人を助ける行為に出来るか出来ないかなんていうのは関係ないだろう!』
「いや、それは関係あるやろ」
『いや、それは関係あるだろ』
熱く語るカストの言葉に思わずアデルと息が合う。
『なぁノエミ、あんな奴はほっといて見学だけでも行こうぜ』
そういうアデルの目はキラキラと子供のように輝いていて野次馬根性を隠す素振りもない。
『茶化すなアデル!僕は一人でも助けに行くぞ!』
そう叫んだカストは私の中にサッと消え、素早く私の体の自由を手に入れ走り出す。
私の身体はみるみる加速していき、軽く人を超えた速度に達する。
「なんで私の身体使うね~~~~ん!一人でいけやぁぁぁぁぁ」
出て行けと念じカストを身体から弾き出す。
カストもアデルも私の許可無く身体を乗っ取る事ができるが、私が強く拒絶すればその限りではない。
『くっ。僕の魂はノエミの側から離れる事ができない。一人でなんて行けるはずないじゃないか、、、、』
カストは膝を付き地面を殴りつける。幽体の彼の拳が大地を捉えることはないが、はたから見れば完全に地面を殴っている様にしか見えない。地味だが凄い技だ。
「だからって、あんたが本気で走ったら私の身体が持たへんやろアホ!」
神話に出てくる勇者の本気に私の肉体が耐えられる筈もなく、取り憑かれて間なしの頃に3分ほど身体を貸したら四日間動けなくなった経験がある。
『だから脳筋は駄目なんだよ』
俯くカストを横目に今度はアデルが私の身体に入り込む。
アデルが私の体を使って魔法を使うと、私の身体が宙に浮居た。
『これなら問題ないだろう?早く行くぞ!』
魔法の源は精神力だ、幽体は精神力の塊のようなものなので彼らは自前の精神力で魔法を使うことが出来るらしく私の才能は関係ないらしい。
二人は私の身体を媒介にこの世界に干渉することが出来るのだ。
因みに飛行魔法は超高等魔法とされていて、現在でも使い手は数えるほどしか居ない。
カストは勇者といえども魔法の才能には乏しく飛行魔法は使えなかった。
だからこそ力の権化とも言えるカストに対して魔法特化のアデルが対等に戦うことが出来たのだという。
「はぁ、、、しっかり守ること、助けるにしても目立たないこと。この2つはちゃんと守ってや、、、、。」
『俺にまかせとけ』
頭の中のアデルが親指を立ててウインクする、同時に一気に加速し、声のした方に飛び出した。
目立たないよう木々の頂点付近を飛んでいく、なにかバリアのような物が張ってあるのだろう、風も時折跳ね出している枝も葉も私の体に当たることなく弾けていく。
カストは私との距離を一定に保ちながら引っ張られるようについてくる、まるで見えないロープで繋がれているようだ。
『お、あれだな』
アデルが意識する方向を見ると人が巨大な魔物と対峙している。
アデルは速度を落とし、ゆっくりと地上に降りた。
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