私のカレシ

 俺は頭を抱えていた――

 目の前には伊織とカレンと幽霊の母さんが座っている。

 もちろんカレンには母さんの姿は見えていないけど。


 ここは俺の部屋。真夏の暑い最中である。


 俺の背中には暑さから流れ出る和えではない冷えたモノがツツーっとシャツを濡らしていた。

 俺が固まってる間に伊織が対応したみたいで気づいたら電話は切れていた。


 それから一時間後が今の状況だ――


「な、なんでカレンがここに?」

「あ、ごめんね。お義兄にいちゃんが違う世界に行ってる間に話が進まないからカレンさんに来てもらっちゃった」

 ペロッと舌を出しながら顔の前で手を合わせる義妹いもうと

 まぁ、あの状態だから怒ることはできないけど。


「そろそろ夏休みじゃない? だからみんなでどこかに行こうって話になったんだけど、どうかな?」


 まるでさっきの会話が無かったみたいに笑顔で話を振ってきたカレン。

 その周りをフワフワ飛び回りながら興味津々な母さん。


――どこを突っ込んでいいやら……


「みんなって?」

「もちろん、響子と理央とあんたたち義兄妹きょうだいよ」

「え!? 私もご一緒していいんですか!?」

「もちろんよ!! 伊織ちゃん大好きだものぉ~!!」


 ――きゃ~きゃ~言いながら顔をくっつけあってすりすりしている二人は非常に絵にはなる……なるんだけど……


「母さん!!」

『なによ?』

「???」


 カレンが不思議そうな顔でこちらを見ている。

 そういえば、はまだ誰にも言ってないんだから、カレンの前でと話をしたりすることはまだ避けた方がよさそうだ。


「ごめんカレンちょっと待っててくれ」

「え? あ、うん」


 伊織の肩をツンツンして一緒に廊下に出ていく。


「伊織、話をする間だけ母さんを入れておいてくれ」

「あ、うん。わかった。ごめんなさいお義母かあさん」

『えぇ~!! もうちょっとカレンさんだっけ? 彼女の事みていたかったのにぃ~』


 頭を抱えて壁に手をついた。


「母さん。そんな事言っても伊織の中から感じられるんだろ? 同じじゃない」

『ばれたか!!』


 言いながらス―って感じに伊織の中に消えていった。


「伊織……この話は後でな」

「う、うん」


 ぽんっと一度だけ伊織の頭に手を乗せた。

 部屋の中に戻るとカレンが窓の外を見ていた。


「ゴメンお待たせ。さっきの話だけど、具体的にはどういう話なんだ?」


 慌ててこちらに戻ってきて座り直すカレン。


「あ、うん。実は浜辺の近くに市川家の別荘があるんだって。最近は使ってなかったらしいんだけど、私達が話してるのを聞いてたご両親がちゃんと管理してくれるなら使ってもいいって言ってくれたんだ」

「待て待て、それじゃ元々俺達は関係ないんじゃないのか?」

「この話はあんたたちが居ないと話になんないのよ」


 伊織と二人顔を見合わせる。

「「どうして??」」

 声がハモった


「う~ん。言ってもいいかな。実は市川夫婦からの提案なんだ」

「???」

一件でかなり藤堂義兄妹に恩を感じてるみたいでね、そのお返しにって。何もできないけど自由に使っていいってさ。言ってくれれば食べ物とかも用意してくれるって」

「え!? でも俺達何もしてないぞ」

 伊織も手をブンブン振りながら否定する。


それに本当に何もしていない。あの一件は頑張ったのは理央であり響子であり市川家みんななのだ。俺達がしたことと言えば、ただ一緒に学校に行ったくらいの事。それを恩と取られてしまうには少し大げさな気がする。そして何もできなかった自分が恥ずかしくもある――


『ありがたくしてもらうってのも、優しさなのよ』

 伊織の脇から優しい声が聞こえる。


 視線をそこに動かした。


――あ!! 油断したらまた母さんが出て来てた!!

 伊織にツンツンと合図する。


 伊織も手をクチに当てて慌てている。

「その話はそれで決まったらまた連絡するから」

「あぁ、うん、わかった」

「ソレから話は変わるんだけど……」

「うん?」


 伊織とともにカレンに顔を向ける。

「シンジ君てカレシだよね?」


「…………」

「…………」


「あれ?」

 カレンが困っている。

 何しろ俺が固まってしまったからだ。


「カレンさん、もう一度言ってもらえますか?」

伊織の威圧感ある声がカレンを襲う。

「えっと……だからシンジ君が私のカレシ……かな?」

 再び部屋に沈黙が訪れた。


「あの……それってどういうことですか?」

 伊織の眼になぜか涙がたまっている。

「え、あの、伊織ちゃん。ち、近い……落ち着いて」

 カレンの目の前にまで迫った伊織の肩に手を乗せて落ち着かせている。


「す、すいません」

その間も俺はまだ言葉をクチにすることができずにいる。


「もしかしてシンジ君も忘れてるの!?」

「な、なにを?」

クチから絞り出すにはこれが精一杯だった。


「はら、私が最初にシンジ君にいてた時に言ったじゃない」

 カレンの顔がほのかに赤らんでいる。



『――もし、無事に身体があって、元に戻ることができたら……シンジ君、あなたの彼女になってあげるよ――』


 キャッって感じで両手をホホに添えてもだえるカレンと、その言葉を聞いて目が見開かれる伊織。


そして俺の脳裏にもようやくあの時の事が思い浮かんできた――


「あれかぁぁぁぁぁ!!」






※作者の後書きみたいな落書き※

この物語はフィクションです。

登場人物・登場団体等は架空の人物であり、架空の存在です。

誤字脱字など報告ございましたら、コメ欄にでもカキコお願いします。


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