相談
――あの時、俺は聞き逃さなかったぞ伊織……
はぁぁ~~。ため息が漏れる
自分の部屋の椅子に腰を下ろして珍しく机に向かって勉強している俺だけど、まるっきり集中できないでいる。
原因は分かってるんだ。けど、確かめる事に対する勇気が持てないだけ。
確かに
[「ただ私もあれが視えるんだよって言いたかっただけだもん!!」]
無意識に上を見上げてしまっている。
慌てて気付いて机に顔を向ける。その繰り返し。
義妹に聞くだけなのだから、そんなに考えなくてもいいように感じるけど、今まで一緒に暮らしてきてそんな素振りの見せなかった義妹に、急に面と向かって
「どうすっかなぁ……」
もう何度目かわからないため息がもれる。
学校帰りのいつもの帰り道でふと目についた雑誌が気になってコンビニに立ち寄る。雑誌コーナーに置かれた週刊誌の表紙に[カレン]の写真が載っていたからだ。しかもほぼすべての雑誌に[カレン]か、もしくは[カレン+「セカンドストリートメンバー]の組み合せで載っている。いよいよ本格的にトップへの道を駆け上がり始めた感じだな。
立ち止まってペラペラとめくっていると、同じ年代と思しき男子がやはり雑誌を見に来て、「カレンだ」「ミホ」だと騒いでいる。
連れの同類だと思われたくない俺はその男子と距離を取ろうとした時。
「キャッ!」
周りをよく見ていなかったせいでぶつかってしまった。
「あ、す、すみません」
こういう時の俺は、たいてい素直に謝る。後が怖いからね。
「くすくす、やっぱり気づかないんだ」
「え?」
そこで聞こえると思っていなかった声がして慌てて顔を上げる。
そこには、女子高生姿のカレンと響子が立っていて、俺がぶつかったのは響子だったらしい。
「こんにちは、真司君」
「あ、響子さん。こんにちは。こんなとろで会うなんて偶然だね」
響子はすこしだけ顔をかしげて困った顔をした。
「うぅ~ん、それが偶然じゃないのよねぇ~」
「?? そうなんですか?」
響子はチラチラと隣のカレンの方を向くけど、カレンは全く反応しなかった。
「ここに真司君が良く来てるってカレンが言うから待ってたのよ」
そしてその瞬間、俺の頭に嫌な予感が浮かぶ。
「ちょっと相談があるんだけど……いいかな?」
「それって……もしかしてあっちのモノ絡み……ですか?」
「そうなの、よくわ――」
「お断りします!!」
――男らしくきっぱりと断っておこう。うん。
「なんでよぉ~!! 話くらいききなさいよぉ~!!」
ようやくこちらを向いたカレンがプンスカしてる感じ。
が、俺はスルーします。
「ごめん、俺も少し悩んでる事があってそれどころじゃないんだよ」
「義妹ちゃんの事?」
――え、何故に分かる? お前やっぱりエスパーだな!?
「な、なんで? そう思うの?」
カレンと響子は顔を見合わせて。
「「何となく」」
ハモッた。
どうも俺はこの手の事にはどうしても慣れない。
いつもの良く行くファーストフード店に連れられてきました。そして二人にだけ集まる視線とそれに付いてる俺。やっぱり…慣れない。
「で? 相談って何だよ?」
カレンが響子にどうぞって形の手を作って「ほれっ」って感じに促している。
「ごめんねシンジ君。あんまりこういう話って好きじゃないと思うんだけど、今回の相談者って私の知り合いなの。だから私が持ち込みした形かなぁ?」
本当にすまなそうに響子が真司に頭を下げて謝った。
そうか、今回の件はカレン絡みでは無いのか。と、真司の頭にふと疑問が浮かんだ。
「あれ? でもその件って、どうして俺になの?」
「その、そのコ達が悩んでるの見て言っちゃったんだよね……」
「なんて?」
「そのテの件なら知り合いに頼りになる人がいるって」
響子のどやぁ顔を見た瞬間、俺は頭を抱え込んだ。
見えないところ、知らないところで俺に繋がりができてしまってると。
「言っておくけど、俺は話を聞くだけはできるけど、それ以上の事は出来ないよ?それでもいいのかな」
すっごくコクコクうなずく響子さんと、その隣で「ご苦労さまぁ」って顔したカレン。
――はぁぁぁぁぁ~!!
ここ最近出ていたため息とは、違う意味でのものが大きく出た。
それから仕方なく、響子にその[相談者]と連絡を取ってもらい、都合のいい日を聞いて直接話を聞くことになった。
「それで? あんたの悩みって何よ?」
飲み物のお代わりを三人で取りに行き、席に腰を下ろして一息ついた時、フォークでポテトを刺しながらカレンがクチにした。
少しの沈黙が流れる。
「あの日、伊織がある事をクチにしたんだ……」
「あることって?」
カレンの質問に俺は黙った。
この二人に言っていい事なのかの判断に迷ったからだ。
「まぁ、あたしにも言えない事なら無理には聞かないけどさ……」
俺の顔を真剣に見詰めながらカレンがいう。
「ごめん……」
「でもね真司君。伊織ちゃんの事は伊織ちゃんにしか分からないんだから、やっぱり直接聞いた方がいいと思うの」
響子はカレンの頭をなでながら言葉を繋いだ。
こういう時のこの二人の優しさは胸にしみる。
「それに、本気で伝えない事には本気では応えてくれないと思う」
カレンが響子の手を振り払いつつ俺に言った。
俺はカレンの顔を見た。
「な、なによ!?」
「い、いや、まさかカレンからまともな感じの言葉が出るとは思わなかったからさ……」
「な、なんですってぇぇぇぇぇ!!」
響子がカレンを「どうどう」って押さえてくれる。まだ「むきぃぃ!」っとか言ってる。
――でも、確かにそうだな。カレンの言う通りかもしれない。それに俺は兄貴だ(義理だけど)。だから聞いていけないことは無い。
「サンキュな」
小さな声でお礼を言った。
「ふん、頑張んなさい」
カレンはそれに笑顔で応えてくれた。
※作者の後書きみたいな落書き※
この物語はフィクションです。
登場人物・登場団体等は架空の人物であり、架空の存在です。
誤字脱字など報告ございましたら、コメ欄にでもカキコお願いします。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます