真実
一番懸念されていたライブの日は無事何事もなく過ぎた。
俺はもちろん伊織もライブにはチケットの都合上行けなかったが、メンバーから響子・理央姉妹経由で伊織に連絡が入ったらしい。
このライブの後の大イベントはあと四か月先までは無いらしい。
ただ、それが気がかりでもある。さすがにアイツも人が多いところでは、簡単にカレンには手を出せないだろうけど、次まで空いてしまうこの期間は割と接触のチャンスは多くありそうだからだ。
天気の良かったこの日は読みたい雑誌の発売日だったこともあり、放課後少し遠回りして帰ることにした。
ウチの学校はどちらの方向へ進んでも近くに大きな街並みに出ることで意外と便利なのだ。
正門を出て、人の集まらないいつもの本屋へ向かおうとした時ポケットのケータイが震えた。
『いつもの店の二階で待ってる』
カレンらしい用件だけのメッセージ。内心は「めんどくせぇなぁ」と思いながらも、あの店の方向にも本屋があったなぁと思いだし、たまには違う店に入ってみるのも悪くないかと思いなおす。
それから三十分後、指定された店の一番奥の席に見慣れた頭と顔が二つと…知らない男の子が一人座っているのが見えた。友達かな? っと思ったので邪魔しないように手前の席に腰を下ろそうとすると、見慣れた頭がクルっとホントにタイミングよく振り向いて俺と目が合った。
「何でそこに座ろうとしてんの?」
「え? いや、友達なら邪魔しない方がいいと思ってさ」
「変に気を使わなくていいんだよ、一緒に話すためにシンジ君呼んだんだから」
おいでおいでって手招きされた。
――なんか俺、犬みたいだ。カレンに飼われるのだけは勘弁してほしい。
もう一つの見慣れた頭は理央だった。
「やぁ、理央さん」
「こんにちはシンジ君。まだ、「さん」付けて呼ぶんだね? 理央でいいって言ってるのに」
手をひらひらさせながら笑顔で話す理央。
「うぅ~~んと、ごめん、ソレは無理かな」
なんて返していると、奥に詰めてくれた男の子が俺たちに顔を順番に向けて。
「なになに? どういう知り合い? どっちかのカレシ?」
言った瞬間にカレンに殴られてた。
――理央さんは笑ってたけど、結構痛いんだよね。
「あ、もしかして会わせたい人って男かよぉぉ!? 期待してたにぃぃ!!」
――あー、それはなんか素直にすまん。
「どうしてそう思うわけ? あんたに女の子なんて紹介するわけないでしょ?」
「だってかれんと、理央からの呼び出しだぜ? 久しぶりに会うんだからそんな感じかと思うだろ?」
――うん、確かに俺でも勘違いするな。しかもこの二人じゃなくても知り合いなら結構レベル高いだろうし。
「あ、ごめん。紹介するね。こちら
「私とカレンの命の恩人なの」
――命の恩人とか、何かすごい紹介のされ方だけど大丈夫かな? 視線が「こんなやつがぁ?」って感じで見られてるような気がするけど……
「で、シンジ君を呼んだのはね、康介のことを一緒に聞いてもらおうと思ってなんだ」
「なんだ康介の事が知りたいのかよ……」
チッっと小さな舌打ちが聞こえた。
「と、言うかそれ以外にあなたに用事はないのよ?」
理央がバッサリと断言した。
――うわ、なんか理央サンきっつ!! 俺と話すときと少し違うような気がするけど。
「ひでえなぁ、まぁいいけどよ。で何が聞きたいんだ?」
それからしばらくの間、康介に関係しそうな話を詳しく聞いていった――
亡くなる少し前までは元気だったこと。特にいじめなどにはあっていなかったこと。恋愛関係の話も聞いたのだが、そこまでの話はしたことがないと言われた。
亡くなった死因は病死ではなく事故死。しかも赤信号で飛び出した人を避けた車に巻き込まれた偶然に起きた事故死だったらしい。
俺はそこで、小さい頃に[人では無いモノ]から聞いた話を少し思い出した。でもすぐに会話の内容が変わったのでほんの一瞬だけの思いにとどまった。
この時、ほんの一瞬だけ思い出した話がすごく大事だったことは後で思い知るんだけど、この時の俺には知る由もない。
結局それから一時間ほど話をして三上は店を出ていった。
「特に変わった話はなかったわね」
「そうねぇ」
カレンも理央も小さく頷きあう。
「あたしが知ってる康介は、小学生のガリ勉康介ってイメージのままだからなぁ」
「確かに中学校までは真面目で成績も良かったからねぇ。でも進路決めるときかなぁ……頭いいのに進学校に行かないのが一時期話題になったんだよ」
「へぇ~そうなんだ」
康介が今何をしたいのかは、その進学校ではなく普通の学校を選んだ辺りに何か理由がありそうだな。そこがもう少し分かれば、行動も理由も、もう少し理解できるはず。今のままでは、次の行動の予測は無理だろう。
ふっと頭をよぎった事が勝手にクチをついた。
「もしかして……康介の初恋の相手がカレンなのかな?」
「「!?」」
二人の視線が俺に集中する。
「その想いを伝えられずに亡くなったから……とか?」
カレンと理央はお互いに顔を見合わせている。
「ま、まさかぁ~。初恋なんて実らないもんだってわかるでしょ?」
「いや、俺に聞かれてもね……」
「それに、あたし康介とは二回くらいしか同じクラスになったことないし」
「二回もあれば恋してもおかしくないんじゃないかしら?」
理央から静かなツッコミも入る。
三人でそれからしばし悩んだ後、結局結論が出ることなく解散することになっ――
カレンは事務所に用事があるというので店の前で別れ、理央と二人で駅に向かって歩いて行く。
「理央さん、ありがとう」
「え!? なに急に、どうしたの?」
少し目を開いて顔を覗き込んでくる理央。
「いや、今回こうしてみんなに協力してもらえるのも、あの時理央さんが話を聞いてくれたからね」
「そんな、私はなにもしてないわよ? それにシンジ君カレンに殴られてたし」
「それでもやっぱりありがとうだよ。俺だけだったら、あのまま何も言えなかったと思うし」
理央はそのまま何も言わずに歩いて行く。その顔に優しい微笑みを浮かべながら。
家に帰っても結局は考え後をすることになった――
康介に関しては分かったことは少ない。あまり友達も多くないみたいだし、その辺から探るのもむずかしそうだ。
ブブブブッ ブブブブッ
「っと!」
机の上に出しっぱなしにしていたケータイが震えながら動き回る。
掴んで見た表示には[日比野カレン]とでている。メールではなく電話の着信だ。
「はい、もしもし」
「あ、ちょっと悪いんだけど……」
「どちら様でしょうか?」
名前すら言わずに話し始めるカレン。だから少し意地悪をしてみた。
「な、なによ!! あたしよ!! カ・レ・ン!! 声聞いたらわかるでしょ!!?」
ホントは分かってたけど、用心と意地悪のためです。
「すまん。で?」
「ああ、そうね。ちょっと今から家まで来れる?」
電話向こうでギャーギャーといっていた割に、俺からの返答をきくとすぐに立て直したカレン。
カレンの質問を答えるべく確認の為に時計を見ると、まだ午後七時を過ぎたばかり。
「ああ、行けるには行けるけど……」
「じゃぁお願い。場所はメールするから」
と、電話が切れた後すぐカレンからメールが届いた。
ひとつため息をついて立ち上がり、ゆっくりと上着を手に取った。
三十分後――
住宅街の中にある。普通の二階建ての一軒家がある。赤い屋根が目立つけど、割と親近感のわく造り。
俺達の目の前にある表札に[日比野]と書いてある。
意外と早めについてしまった。
そして隣には義妹いもうとの伊織も一緒だ。
出かけようとしたらちょうど夕飯の支度を終えた伊織が俺の部屋に歩いて来て、廊下で会話する形になった。それでカレンの家に行くことを告げ夕飯も外で食べてくるからと伝えると、エプロン姿だった伊織は慌てて二階へ駆け上がり、また慌てて降りてきたかと思ったら、お出かけ用のショルダーバッグを下げてきた。そして「カレンさんが心配」とか「夜、男の人が行くなんて危険」とか「お義兄ちゃんが危ないから」とか理由をつけてついてきたのだ。
ちなみに、夕飯は珍しく二人とも家にいた両親が食べるので心配はいらないらしい。父さんからは「あまり遅くなるなよ」って言われたけど、特に気にはしていないみたいだ。
「あの……ウチに何か用ですか?」
家を見ていた俺たちに後ろから声を掛けられ、伊織と二人そろって[ビクッ]となった。
振り向くとそこには、肩からスポーツバッグをかけた伊織と同じくらいの歳の男の子が、俺達二人を怪しむような眼で見ながら立っていた。
「え、えと……ここのお家の方かな?」
「そうですけど……何ですか?」
かなり怪しまれてる気がする。
「あの、私たちカレンさんにお呼ばれしてして来たんですけど……」
「ああ、姉ちゃんの友達っスか。ちょっと待ててください、呼んできますから」
そう言って男の子は乱暴な感じでドアを開け、「姉ちゃぁぁん、客きてるよぉ」って言いながら家の中へと消えていった。
すぐにカレンが出て来て「どうぞ」って招きいれてくれた。
そのまますぐに居間へと通されてソファーに伊織と座る。その対面に俺たちに飲み物の入ったグラスを用意してくれたカレンが座った。今日はお母さんは仕事に出かけているらしく、この時間はたいていが弟君と二人らしい。
「三つ違いの弟なのよ」
「へぇ~」
家の前で会った時からそんな感じがしてたけど。改めてカレンが呼んでくれて紹介してくれた。
「姉ちゃんのカレシ?」
「ち、違うわよ!! 今はまだ!! もういいからあっち行きなさい!!」
「んだよ!!」
なんていいながら素直に二階に上がっていく弟くん。
――後でカレンに何もされないといいけど。
でも仲は良いみたいだ。
「あんた達ホントに仲いいわね」
――あれ? なんか同じこと今思ったんだけど。
「え? いや、伊織が心配してくれてるだけだよ。俺が何もできないから」
「そんなことは無いよ、お義兄ちゃん」
「ま、いいけど。今日呼んだのはこれを見せたかったからなのよ」
カレンが出したのは小学生時代に書かれた卒業文集みたいな冊子だ。
いろいろな子がいろいろな考えをもって過ごしていたことが分かる。響子も理央も、そしてカレンも明るい未来を見ていた証がここに書かれていた。
「ここ、康介の書いた文なんだけどね」
「どれ?」
ここよって、指さされた場所に目を移すとそこに書かれていた文章に戸惑った。
[明日があるかもわからない僕は、今日を生きれてるだけで幸せだ。願いはみんなが僕より長く生きて、僕を忘れないでいてくれる事、それだけ]
それだけが書かれていたのだけど、明らかに康介だけが、先の未来を明るくは見ていなかった。
――どういう事だろう。
言葉の意味もそうだが康介はなぜか同じ年代を生きてる同じ歳の子のはずなのに、俺達よりも大人な感じがする。
「ね、姉ちゃぁぁん!!」
突然二階から叫び声があがった。ビックリして腰を上げた時には二階からカレンの弟が勢いよく降りてくるところだった。
「な、なに? ど、どうしたのよ」
「ね、姉ちゃんのお客さんて三人だったのかよ」
「「「え?」」」
俺達三人は顔を見回した。
「わ、私が呼んだのはこの人だけよ。まさか
最後、義妹ちゃんがどうとか良く聞き取れなかったけど、カレンが呼んだ人物ではないらしい。
――誰が……?
俺は息をのんだ。
カレンの後ろにふわふわ浮いてモノ。
「康介]!!」
「え!?」
カレン
ピカッと何かが光る。
その瞬間、衝撃が俺たちを襲う。壁まで弾き飛ばされた。
「くっ!」
痛む体を何とか起こし辺りを見ると、カレンと弟くんは反対側の壁まで飛ばされて倒れている。俺の隣では伊織も体を起こそうとしていた。
『こんばんはシンジ君』
「こ、康介なぜここに……」
『ええと、ここに来たのはカレンさんの意思を確認しに来たんですがね。ああ、ここの場所はもちろんシンジ君をつけていたからわかったんですよ』
「な!!」
動かない体で必死に俺は俺を殴りつけた。
――うかつだった。よく考えれば分かる事。康介は初めから俺に
もう一発殴りつける。
隣にいた伊織はギョッとしていたが、まだ体が動かないらしく悔しそうな顔をしている。
『心配しなくていいよ。君たちにもカレンさんにも今日は何もしないから。しかし困ったな……気絶しちゃってますね』
コイツにここまでの力があるなんて思ってもいなかった。どうするか動く頭の中でグルグル回転させる。
『それに、あなたがいる以上、ここにはあまり長くはいられそうもないのでね』
康介は俺ではないどこかを見ながら話している。
『あんた誰よ!?』
「え?」
声のする方に視線を移す。
『あんた康介じゃないじゃない!! 誰なの!?』
そこには、横たわるカレンと霊体になりふわふわと浮いたカレンの姿があった。
※作者の後書きみたいな落書き※
この物語はフィクションです。
登場人物・登場団体等は架空の人物であり、架空の存在です。
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