闇との決別
「カ、レン……」
「理央、負けないで!! あなたならできるわ!!」
理央を助けたいというカレンの願いは、わずかだが闇に引きずられていく彼女の心に届いたようだ。
だがまだ、まだまだ足りない。それは、彼女の理央の後ろから放たれている黒いモノの勢いが、わずかに衰えたに過ぎない。
それほどまでにこの理央の心は閉ざされかけていくるのだ。
手を伸ばして、理央に近づこうとするカレンを伊織と二人で押しとどめる。
「だ、ダメだカレン! まだ、彼女には戻ってない! 足りないんだ!!」
「で、でも!!」
――このままではまだ足りない。それは分かっているんだ。
でも、俺も怖い、気を抜くと引きずられそうになる。
くそっ!!
壁際でうずくまり、震える家族。二人の前に歩み寄る。
時間がない。ここで説得できなきゃたぶん彼女は戻らないだろう。
「あなた方、あなた方も何かあるでしょ?言わなきゃいけないことが。彼女はそれを待ってる」
「私たちも?」
震える声で響子は答える。
「あなた方は家族だ。なのに家族として、[姉]として[母]としてちゃんと向き合ってきたと言えますか?」
「そ、それは……」
「理央さんはいつも一人だと言っていた。それは家族といるときでさえも思っていたはずです。ならその原因を作ったのはあなたたちなんだ」
我ながらかっこいいこと言ってるけど、内心すごいドキドキしてた。だってこの二人とすらまともに話してないのに、イキなりこんなこと言われてもピンとこないんじゃ? って思ったから。
でもその想いは届いてくれたみたいだ。
「理央、理央ごめんなさい。私、ちゃんとお姉ちゃんじゃなかった。一緒にいたのに分かってあげられなかった。ほんとにごめんなさい。理央は大事な妹なの!! たった一人の大事な!! だから行かないで!!」
姉の響子は理央のそばまで歩み寄り、涙を流しながら頭を下げた。
「ごめんなさい理央。あなたが悩んでるなんて思ってなかった。良いことは響子が、悪ことは理央がって勝手に決めつけてたのね。それに響子を褒めたらあなたも褒めている気になってたの……。本当にごめんなさい」
そして母もまた涙を流しながら頭を下げた。
「理央、すまない。父さんは時々しか帰れないことを言い訳にして、二人で一人だと決めつけていた。よく話も聞かずに。本当にすまない」
これには振り向いてびっくりした。いつの間にかお父さんまでが部屋に来ていて、様子をうかがっていたみたいだ。
「あ、あたしも、ごめんなさい。忙しいとか理由にして会ったりする事少なくなってた。理央も響子も私には大事な大事な、幼馴染で大事な友達なの!!」
そしてカレンも叫ぶ。
「わ、たしは・生きたい!! みんなと生きたい。友達と家族と!! だ・から・ま・負けない!!」
そして彼女は自分を取り戻した。自分に打ち勝つことができた今ならそのモノを追い出すことができるはず。
俺は叫ぶ
「今だ理央さん!! ソイツと戦え!! 自分から追い出すんだ!! 今の君なら、生きる事に先を見た君ならできるはずだ!!」
「や、やって・みる!」
それから彼女とそのモノの戦いが始まった。でも勝敗は見えてるんだ。負は正には勝てない。どうしたって意識していれば生きている者が、生きていないモノには負けないから。
理央から小さい声が聞こえる「負けない!」「生きるんだ!」って
そして数分後、暗から闇へと広がっていたモノは、[理央]の体に中に留まることを諦めたかのように勢いよく天井へと向かって渦を巻きながら登っていき、部屋に広がるように消え始めた。
その瞬間、サッと身構える…よりも早く、伊織が俺の前に両手を広げて回り込んできた。
そのモノから俺を守るように。
「い、伊織?」
「大丈夫! お
――え、あの、伊織ちゃんカッコイイんだけどさ、それ俺のセリフじゃないかな?
それになんだかお兄ちゃん情けないような気がするんだけど……
そのあと少し警戒していたが、そのモノは部屋にも、もちろん人にも戻ってくる気配はなかった。
ばたっ
「り、理央!!」
その場に崩れるように倒れ込んむ。
周りを、そして理央を警戒しながらも理央を介抱するため、みんな一斉に動き出した。
始めに動いていたカレンがそのまま理央を抱きしめている。
絵になるなぁって内心思ったけど、クチには出せない。
そしてその二人を包み込むように響子も抱きしめる。
「か、かれん」
「理央!? 大丈夫?! 痛いとこない?!」
クスクスと小さく笑う理央
「大丈夫……変わらないねかれんは……ありがとう」
「ううん、ううん、良かった。ほんとに良かったよおぉぉぉぉぉ」
ワンワンと泣き始めるカレンと家族の人たち。そして釣られるようにように涙を流す伊織。
――良かった。間に合って本当に良かった。
ここでの戦いは終わった。
でも全てが終わったわけじゃない。
あの時、あの渦巻く闇とともに上るヤツ。
あの時ヤツは、こちら見て笑ってたんだ……。ヤツをどうにかしないとまた別の犠牲者が出てしまうだろう。
考えていた俺の顔をのぞき込んでくる伊織に気付く。
心配しているんだろうなって思って、伊織の頭をポンポンなでなでしてやった。
うん、考えるのはやめよう。
今は、目の前に広がる感動的な場面をじっくりと味わいたいと思った。
※作者の後書きみたいな落書き※
この物語はフィクションです。
登場人物・登場団体等は架空の人物であり、架空の存在です。
誤字脱字など報告ございましたら、コメ欄にでもカキコお願いします。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます