友達の定義
「ほんとうに一緒に行くの?」
「はい、ご迷惑でしょうか?」
う~んって感じでカレンが顔ををかたむける。それを見つめる伊織。
それを少し遠めからみているんだけど、かなり目の保養になるというか、めちゃくちゃ絵になるというか。
我が義妹の伊織だが、カレンというアイドルと並んでも見劣りしないかわいさである。
少し兄として盛ってる感じもするが、そんな事どうでもいいんだ。だってかわいいんだもん二人とも。
「シンジ君! いいのかしら?」
困ったカレンがとうとう俺に意見を求めてきた。っていうかカレンの目が「えぇ~?困るから何とかしてよぉ~」って感じになってる。
「うぅ~ん、伊織が大丈夫っていういなら……」
「ホントに? お
この、胸の前で手を組んでお願いポーズって……弱いんだよねぇ。
今はその週の週末、再びカレンが迎えに来ていて家の前での会話中です。
今日も伊織が一緒に行くというので、玄関の前に二人で待っていたのだが、カレンがなかなか納得しなくて首を縦に振らずにいた。
今日の行先は[市川家]なのだが――
カレンが嫌だと思う気持ちは分かる。少しおかしくなった友達の家に行くのだから、なるべくはそういう事は知られたくないのだろう。もしかしたら、前の事もあるし伊織の事を危険にさらせないと心配してくれているのかもしれない。実は根はやさしいからないい子だからなぁ。
伊織も伊織で珍しい。俺の前ではなかなか自分を出さず、我がままをあまり言うことがなかった。その伊織がこんなに粘っている事なんて、今まで俺は見たことがない。
「まぁ、いいじゃないか。危ないところには出さないようにするし、もしもの時は俺が盾にでもなって守るからさ」
「あ、ありがとうお義兄にいちゃん」
――わ、わかったから、ギュウッ! っと抱きついてくるな
「ま、まぁ、シンジ君がいいなら私は何も言わないわ。でも伊織ちゃん、危ないことはしないでね?」
「はい、わかりました」
――ふうぅ~やっと話がまとまったか。
「カレン、そ、そろそろ行こう」
「え、あ、そうね。じゃぁ二人とも乗ってちょうだい」
運転してくれるのは今日もマネージャーの今田さん。俺は会うのは2回目だけど、伊織は「初めまして……」って挨拶を交わしている。
ちょっとピリッとした空気が車の中に漂っているみたいだけどなんでだろ?。
でも会話は何とか弾んでいるようだ。良かったさすがコミュ力の高い者同士だなぁって感心する。
俺はその空気に触れないように外をながめる。これからまた訪れるであろう相手を、あのモ・ノ・をどうすっかなぁって事に意識を傾けていた。
何度来ても立派なもんだなぁって、見えてきた時から思っていた。
伊織なんて「すごぉ~い」と「おっきいぃ」とかカレンときゃいきゃい騒いでいた。
それも、門をくぐるまでしか続かなかったのだが――
明らかに雰囲気が違う。門をくぐったこちら側の空気が冷たい。
それは見えないはずの二人も感じたみたいで、騒いでいたことなど感じさせないくらい顔をこわばらせ体は固まっているようだ。
「お、お義兄ちゃん。ここが、そうなの?」
「ああ、ここにその人たちがいる」
「 なんだか、前回来た時よりも変な感じね……」
もうすでに俺の背中には冷や汗が流れ出し、お気に入りのТシャツがベッタリと身体に貼りついていた。
前回来たときと違うのは、車を降りてすぐに響子さんと響子さん達のお母さんが出迎えてくれた。移動中の車の中で、カレンがお宅に向っている事、あとどの位の時間で着くかなど事前に連絡していた。それもあってか今日は玄関前でのお出迎えとなったようだ。
前回お邪魔した後、お宅に伺った理由をカレンから聞いたという響子さんを除く家族の方は、娘に起きたことを目の当たりにしたお母さんでさえも、まだ半信半疑のままだという。
「こんな状態になっているなんて……」
お母さんと姉の二人に案内されて家の中に入る。リビングまで通されるとそのソファーに一人の男性が腰を下ろしていた。姉妹二人のお父さん、お母さんの夫だと紹介された。
俺と伊織の二人はもちろん初めてお会いするので挨拶をしっかりとしたのだが、お父さんには挨拶を返してくれるわけでもなく、あたんに両手を乗せて俯いてしまっている。顔を上げようともしない。
「あ、あれは……う、ウチの娘なんかじゃない……」
それだけを何度も繰り返していた。
嫌な空気が家の中を漂っているのがわかる。この1週間、[理央]さんは外出していないというのだからそれもうなずける。
[理央]さんは外部の人間と接触することを避ける事で、自分の内側の暗く冷たいモノへと引きずり込まれつつあるのだ。
俺も小さい頃に経験があるからわかる。このまま放置しておけば更にそのモノが広がって、家族の間にも影響してくるはず。
「ちっ!! 間に合ってくれるといいんだが!!」
ホントは行きたくない。怖いし今にも引きずられそうだし。基本的に俺は弱い人間のままなのだ。どうしてこんなことしてるんだろうって思う。
姉妹の部屋に向かう廊下を歩く間中も圧迫感は続いて、近づけば近づくほどにその闇の色は深くなっていく。
――でも、いつもみたいな不安が無いんあだよなぁ……
体が軽いっていうか、良くわかんないけど。それに今日は伊織もいるんだからしっかりしないといけないし。ここで逃げ出したらカッコ悪いお兄ちゃんのままになっちゃうし。
――よし!!
たどり着いた部屋のドアの前。後ろを振り返ると、すぐ後ろにはなんと伊織がいて、俺のシャツを掴みながら付いてきたようだ。そのあとに、カレン、そして響子さんが続き、なんとお母さんまでもが一緒にここまでやってきたようだ。
一息ついて気合を入れたら、ちょうど伊織と目があった。
「だ、だいじょうぶ、お兄ちゃんが守ってやるからな!」
「へぇぇ? あ、う、うん」
――何だろう? 俺なんか変なこと言ったかな?伊織が下向いちゃったけど……
まぁいいや。考えるのは後にしよう。
「は、入るぞ!!」
「「「はい」」」
ガチャッ
ほぼ真っ暗な部屋の中に一人たたずむ女の子理央だ。
その周りを渦を巻くように流れ出ている闇。
「り、理央」
カレンが言葉をかける
「理央、来たよ」
ぴくッと体だけが反応した。しかし返答はない。
「理央、お友達がきてくださってるわよ?、一緒にあそんだら……」
お母さんが続けて声をかけたが途中でかき消された。
『とも・だち?』
この声色、人のものじゃない。理央さんの声じゃない。遅かったのかもしれない。
『とも・だち・な・んていな・い!わ・たしには・ともだちなん・ていない・のよ!!』
理央の周りにうごめいていた黒い闇が、覆いかぶさるように襲いかかってきた。
「「きゃぁ!」」
「うわっ!」
カレンと響子、お母さんの三人は壁まで飛ばされて打ち付けられた。
俺は何とかその場に踏ん張ることでたえることができた。そして伊織は俺の腰に腕を回して耐え抜いたみたいだ。
――こ、こんな時だけど、うれしいぞ義妹よ。
「私には、本当の友達なんていない、本当の両親だっていない本当の姉だっていないのよ!!」
「理央……」
声が――さっきと違う。
このキレいな声の方が理央さん本人の物なんだろう。
「いつも響子ばかり、どこに行っても何をしても、目立つのは響子……。そんなあなたには人が集まってくる。わたしには? どうして同じ様なことをしても誰も近寄らないの? 都合のいい時だけ響子の妹だからって理由で寄ってくる。ねぇ? それって友達なの? 教えてよ……友達ってなんなの?」
「お母さんとお父さんもそう。いいことがあるとすぐに響子。良くないこととかがあると、響子の妹でしょって……。わ、わたしは理央、理央なの!! 響子じゃない!!」
再び理央から放たれる闇が強さを増す気配がする。
「なら、私はいらないよね? だって響子がいるんだもん!! 響子だけが必要なんでしょ?」
このままでは闇に飲み込まれてしまう。
本人の意識がまだ表面に出てくるなら、まだ間に合う!
俺は急いで壁の方に目を向ける。
打ち付けられた体を痛そうに押さえながら、カレンは立ち上がっていた。
カレンに目線で合図する。
「違う!! 違うよ理央!!」
カレンはまた飛ばされそうになりながらも、いつの間にか俺達の側まで来ていた。
慌てて伊織がカレンの肩を組んで支えあう。
「あたしは、響子がいるから理央と友達になったわけじゃない。理央がいるから響子と友達になったわけじゃないよ!」
『わ・わたしと・とも・だ・ち?』
声色が変わる。
『あ・なた・も・おな・じで・しょ?』
「違う!あたしは理央が理央だから好きになったの!!理央だから友達になったんだよ!」
『くく・くくく、あはは・はははは!』
「お願い理央思い出して!一緒に泣いたり、怒ったり、笑ったり。いつも私たち3人で、ずっと友達だって約束したじゃない!」
『や、約束……』
「そう!!あの時の約束、忘れちゃった?あたしは忘れない!忘れてないよ! だから、お願い!そんなヤツに負けないで!! あたしは信じてるから!!」
「か・れん……」
闇が少しだけ勢いが弱まる。
理央の表情が少しだけ微笑んだよう気がした。
※作者の後書きみたいな落書き※
この物語はフィクションです。
登場人物・登場団体等は架空の人物であり、架空の存在です。
誤字脱字など報告ございましたら、コメ欄にでもカキコお願いします。
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