うちの妹がアイドルに?

あなたは目が覚めた時、目の前に白い顔をしたかわいい少女がのぞきこんでいたことがありますか?

 しかも、アイドル級にかわいい顔が...。

 俺はあります。今まさにそう。

 うらやましいって? ほんとに? ほんとにそう思いますか?

 それが人間じゃなくてでも……


「んんくっ!!」

 寝起きの俺の開眼して映った光景に言葉にならない声をあげた。

 寝起きに隣に人じゃないモノがいた時でさえこんなに驚いたことはない。だって経験したことなかったから。そりゃ俺だって、青春時代?を送る男子高だし、こうゆうシチュエーションを夢に見ないやけではない。ただそれは生身の人にであって、けして幽霊にではないのだ。


「お、おまえ、俺の夢の一つを勝手に壊すなよ」

『あら、やっと起きてくれたの。ねさっきから前で待ってたのに全然起きないんだもん』

 ようやくモヤの取れてきた頭を起こして体にかけていたタオルケットを上げる。時計を見ると昨日と同じような時間を指していた。

 休日だというのにこの藤堂家はいたって静かだ。両親ともに仕事の都合でいないことが多いし、妹は俺と違ってコミュ力が高いから友達やらが遊びに来て出かけることがしょっちゅうだった。


 今日は伊織は部活とか言ってたっけ。昨日夕飯時にした会話を思い出す。


『で? さっきの夢の一つって何よ?』

 ふわふわとベッドの周りを浮きながらのぞき込んでいるこの人じゃないモノは、自称生きている日比野カレン。つまるところの[幽霊]さんだ。ある約束のために俺に憑ついているらしい。


「あー、別に……。たいしたことじゃないから忘れてくれ」

『えぇ~、気になるし』

「うるさいなぁ」

 言いながら「うりうり」って感じに指で肩をつつこうとする。

 体をつつくな!!どうせ通り過ぎてくんだから。


 案の定俺の体を素通りしていくカレンはほっといて、とりあえず着替えをするついでに出かける用意もしてしまう。

 引きこもり気味の俺だが、一応出かけるとき用のための服はある程度持っている。まブランドものってわけじゃないけどね。


『シンジ君、今日から始めるのね?』

「そうだな。昨日カレンから詳しく聞いた事を基にして、君の周りの人たちから情報を集めていくことにするよ」

『わかったわ。私もいていくからできる限り協力する』


 ――あれ? 今なんか言葉のニュアンスが違ったような気がするけど……


 むん! って感じで胸の前で腕を突き出すカレン。気合を入れてるポーズのようだ。

 そんなカレンを見て苦笑いする。


「いいか、前もって言っておくけど、あんまり俺に近づくな。君たちみたいなモノが近くにいると寒いんだよ」

『なによぉ、そんなこと言って。あ、わかった! テレ? 照れてるんだ!!』

「ぶっ!!」

 思わずむせる。「かわいい~」とかなんとか言ってるけど、俺はそもそも[人じゃないモノ]とか嫌いなんだからな!!

 

――ま、確かにカレンはセカンドストリートっていうアイドルだというだけあって外見はかわいいんだけどな……


「しゃべらなきゃな……」

『え? なに? 』

「なんでもねぇよ!いくぞ!!」

『あぁ~っと、まってよぉ~』


――あぶねぇ~! 聞かれたらハズいじゃねか。


 それから夕方までカレンの学校の友達とか事務所とか立ち寄りそうなとことか、一応聞ける情報を集められるだけ集めてみた。途中、カレンの友達やらにカレシと間違えられたり、事務所の偉い人から関係を深く追及されストーカーに間違えられて、警察に通報されそうになったりと冷や汗をかく場面もあったが、後ろに憑いてきて来ていたカレンが助け舟的なアドバイスをくれておかげで何とかやり過ごすことができた。

 そして思い知る。芸能関係に限りなく接点がない俺でも理解できるくらい、[セカンドストリートのカレン]はアイドルなんだということだ。


『どうするの? これから』


 今は自分のうちの近くの駅近くにある小さな公園のベンチに日差しを避けるように腰を下ろしている。

 少し俺が歩き疲れた俺が休んでいいか?っとカレンに声をかけて座ったのだ。


「うん、動ける範囲で聞いて分かったこともあるし、それに…少し気ななることもあるんだ。だから今日はもう家に帰ってもう一度確かめたいことがある」

『何かわかったの?』

「まだ、確信があるわけじゃないんだけど」


 手に持っていたペットボトルの水を一飲みする。そして、出会って話した人たちの会話を思い出していた。

 

 気になっていたのはカレンとアイドルグループの娘が話していた、同じグループの娘との会話。


「齋藤さんがね、あ、齋藤さんっていうのはうちらのマネージャなんだけど、あの子たちにマネージャーさんが言ってるのを聞いたらしいんだけど、近々大きいとこでライブするって決まったこの大事な時に勝手にいなくなって迷惑かけるなって。本人からの連絡あったら直ぐに知らせろってすんごい怒鳴ってたみたい。だけど大きいとこでライブとか、うらやましいよねぇ」「ねぇ~」

 

 という会話…。どこが…とは言えないけど何か引っかかるんだよなぁ

 そう思いながら一つため息をついた。


『ありがとうシンジ君』

「な、なんだよ急に」

『だって、今考え込んだり、悩んだりしてるのって私のためでしょ?』

 その通りです。どっかの誰かさんが憑ついてきてい座るもんだから、早く出ていってほしいからがんばってるんです。って言おうと思った。

『ありがとう』

 と、言いながら胸の前にクロスされた腕に顔尾を隠してうつむいているカレン。

 思った言葉は言わずに飲み込んだ。それはこの時カレンが泣いてると思ったからだ。

 カレンだってなりたくて[幽霊]になったわけじゃない。だからつらいことはつらいのだ。

 泣きたい時だってあるさ。


 ブブブブブブ

 腰に入れておいたケータイが鳴っている。

 表示は[伊織]わが妹だ。

「はい、うん、うん、わかった。近くにいるからすぐに帰るよ。うん、じゃ」


「カレン、帰るぞー。今日はカレーだってよぉ~」

『か、カレー? ちゃんとおそなえしてくれないと食べれないんだからね?』

 ――お? 少しは元気になったみたいだな?


「そんなのするわけないだろ? うちには仏間はありませぇ~ん」

『そんなのずるいよぉー、私もカレー食べたぃ~』


 先ほどまでの少し重くなりかけた空気を振り払うように、なるべくバカっぽい話題をしながら夕焼けに染まってきた道を歩いて家路についた。






※作者の後書きみたいな落書き※

この物語はフィクションです。

登場人物・登場団体等は架空の人物であり、架空の存在です。

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