第3話 Who Let The Dogs Out
Who Let The Dogs Out その1
青く金属的な艶を帯びた大小の幹が絡みつき大樹の程をなす宇宙船を前に、俺と依由ちゃん、そして響は砂の大地で正座を強いられている
『どうして全員来てるの』
照美は飽きれているのか背を向けたまま話し、傍に置いた工具箱から多種多様のツールを使い表面の幹を切り、力任せに蔦を千切り捨て
露わになった船体のパネルを外し内部を弄り、顔色を伺おうにも全くもってこちらの言い分を取り合う素振りはない。
『それに唯一の移動手段をこの砂の惑星で無人にしてきたわけ?』
「大丈夫大丈夫、中にキルケー置いてきたから」
そう、出発前に俺のスーツに’’居た'' キルケーを響はギャリーに移しコントロール権を委託したと話してはいたが、あんな口ぶりの奴任せて本当に安全なのだろうか。
そう、と照美は手元を動かし続け、まるで俺をいないもののようにして話をしていることにムッとして口を開いた。
「このまま疑われたままより、行動で無実を証明したいんだ!それになにより女の子一人じゃ心配だろ!」
啖呵を切ってはみたものの照美は黙ってネジを次々と取り外す中、依由ちゃんが慕うようにして声をかけてくれる。
『守さん…優しいんですね』
唯一反応してくれる彼女へ、そんなことないよと謙遜し互いを見つめ合っていると
『別にスパイスはキメてないよ』
響がおどける様に腐し、手が止まった照美は少し考え込み、ようやくこちらを向いた。
『その気概に免じて拘束はしないでおいてあげるけど、もし変な動きを見せたら即対処するから』
先端に微弱な電気を帯びた六角レンチを向けこちらへ向け警告し、元の作業へ戻る。
思いついたままを我慢できず、小さく漏らす。
「……電磁レンチ、か」
『やっぱキメてるかも』
突如、照美はターンしてレンチを船へ叩きつけ三人は背筋を正し口を紡ぐと、側の外壁が幹もろとも吹き飛び船内部への入り口ができた。
『随分と余裕なのね』
呆れたように言うと、一瞥くれ単身船へと入っていく。
痺れる足で後に続くと中は暗く、女子三人はそれぞれ手際よく太腿に装備された発炎筒を取り、かかとで擦り着火させた。
淡い橙色に照らされると胞子のようなものが辺り一帯を漂い、壁や床には外と同様の根が伸び異様な光景に眉をひそめる。
『エコースキャン』
照美がそう言うとスーツ腹部の蛇腹シャッターが一段、また一段と上がり、中からフルレンジのスピーカーユニットが姿を見せた。
[エコースキャン信号を確認、遮音開始]
周囲の音が一切聞こえず、自らの鼻息と心音がヘルメットに荒々しく響く。
依由ちゃんは身を寄せてはくるもののいたって平然としている。
照美に深く息を吸い、止めると腰に拳を据え、身体を大きくのけぞらせ叫んだ-ように見えた-。
すると彼女から発せられた声が腹部のスピーカーユニットによって何十倍と増幅し船内を反響しながら駆け廻っていく。
船全体がその声の大きさにブルブルと振動し塵が天井から落ち、それ反応し根の至る所からさらに胞子を排出し始めた。
[遮音解除 解析情報を立体化し周囲へ送信します]
腹部のシャッターが閉まり外からの音が聞こえるようになり、船の隅々までが音叉のごとく響いているのがわかった。
『守さん大丈夫ですか?』
いまだ腕を掴む彼女は上目遣いで聞き、どこまでもこちらの心配をしてくれる。すこし過保護の気はあるが悪くない気分だ。
「で、今のはなんだったんだ?」
『音を反響させて内部の立体地図を作るんです、そろそろ終わるころですよ』
〈解析完了 表示します〉
照美のヘルメットからライトを取りはずし床に置くとそこには船の全容が投影される。船内はまるで毛細血管のように根が隅々まで張り巡らされていた。
『コントロールルームまでは難なく行けそうね』
『ここを見て。このダクトに詰まってる根さえ取り除けば、この胞子を排出できるわ』
『問題はこのC2からA6にかけての崩落だね~』
「そこならB3を迂回すればいいわ、それよりECが生きてるか確認しないと」
『ん、よし、想定よりは酷いね。じゃあここは....』
照美と響は顔をしかめ今後の展望を含め深く話し合い始めた。
「何言ってるかわかる?」
『すいません、システム面はまったく...』
「だよねぇ」
互いに体操座りでその光景を他人事のように見つめていると、二人の話は一向に終わる気配もなく、持て余した間を溜まっていた疑問を投げかけてみることにした。
この船はどこへ向かっていたのか、一体何が目的だったのか。果たしてどんな人たちが目の前で命を落としていったのか。
それはどれも学校で話半分に聞いていた学生調査の一環だった。資源や植民地、新たな発見を求めると同時に次世代の開拓者のフックアップ。
そんなフロンティアスピリットを持った学生を募集、審査し数々のテストと面接の結果選ばれたエリート100人....そんな中、生き残った三人の女の子と理由もわからずその場にいただけ男。その事実を知りさらにまたこの価値のない命に重く圧し掛かるものがあった。
俺もまたこの船で起きたことをありのまま話し、浅ましく慰めを求めた。
「もし俺じゃなければきっと他の乗組員は助かったかもしれない」
「俺がいなければ...」
毎日続けていた後悔を再び繰り返し、気づいた時には拭うことのできない涙が流れ始めた。
『でも守さんがいなかったら私たちまで死んでたかもしれないんですよ?私たちまで死んでもよかったんですか?」
「そんなこと...」
言い切るよりも早くこちらの身体を抱き寄せ言った。
『大人は泣かないんでしょう?でも私の前でなら、大丈夫ですから。』
母性にも似た慈愛に包まれ、癒され依由ちゃんのことをもっと知りたいと思うようになりそのまま言葉になった。
「依由ちゃんはどうして船に乗ろうと思ったの?」
彼女はどこか言い淀むように返答に詰まっている。不躾だったかと質問を変えようとすると意を決したようにして下唇を噛み、過去を明かす。
『私は....』
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