シングルマザーの愉快な現実
七津 十七
その1 そんな日常そんな日々
第1話 オッス、オラ元人妻
「シングルマザーはモテるから気をつけて!」
離婚調停も終わり、日々の生活がフラットになってきた頃、七年近くお世話になっている美容室へ行った。店長のお兄さんは若かりし頃はなぜか自衛隊だったため、今でも細マッチョのイケメンだ。(なぜかは未だ聞いた事がない)
出産前に髪を切ったのを最後だったので一年以上ぶりとなった。その時、旦那が帰って来ないんだよねぇ〜などと世間話をしていたのだが、それをなんとなし覚えていたらしく、「旦那さん、お父さんしてる?」とそれとなく聞いてきた。さすが美容師、話術がさり気ない。いないかもしれないのを考慮に入れつつ、今後の会話のためにも早めに聞いておこうと、優しいカマをかけた。カマをかけてきたね、とアイコンタクトを送る。お兄さんも、私なら聞いていいかなとにこやかに頷いた、気がした。なので私も明るく、いつものように、いや、離婚したんですよと伝えた直後の台詞がこれだった。
「も、モテるんですか?」
お前も食いつくなよという話だが、開口一番の台詞がこれなのだ、なぜと思うしかない。そしてワクワクする。何せモテ期は来たことがない。喪女道まっしぐらの私としては、人生初のモテ期が来るかもしれない、しかも元人妻であり、これから子どもを育てる責任ある立場である自身への不謹慎さも相まってワクワク度は高い。
「モテるよー。ただし、変な男が近寄ってくるから気をつけて。変な言い方で悪いけど、七津さんならわかると思うから……ええと、都合がいいんだよね、シングルマザーって。旦那いないじゃん? 子どもいるじゃん? 結婚して欲しいオーラはないし、タイムリミットもない。だから安心して男が近づくんだよ」
人によっては反吐が出る話だが、私も大人だ。いわゆる綺麗事ではないそれは、確かになぁと思うしかない。
責任感なく付き合えるのは本当に楽だ。
その昔、お付き合いしてた人は年下で、しかも転職真っ最中。お互いの年齢もドンピシャ適齢期だった。だから別れた。責任を持つ余裕はお互いなかった。その後も行き遅れだの、子どもはないのだの、田舎特有の文句に飽き飽きしていたのが、今では何もない。田舎の割には、離婚率が高いせいか、むしろみんなが助けてくれるのだから不思議な地域である。
まあ、とにかく気をつけて、とお兄さんは言った。そんなお兄さんは独身であるらしいがどういった独身かは知らない。
そんな話を別所ですると、四十代女性がため息をついた。
「わかるー。うちは旦那と一緒に住んでないしこれからも住むつもりはないけど、子どもの手続きも面倒だしとりあえず別居にしてるのよ。結婚指輪も疎ましいから外してたら、寄って来るわ来るわ。食事の誘いや休日どこかへとか、指輪がなくなっただけでこれよ。それはそれで嫌だからわざと指輪してるの」
ほら、とシンプルか指輪を見せてくれた。子どもが大学行ったから余計にね、と付け加えた。
うーん、指輪付けておこうかなぁ。離婚したことはあんまり言わないでおこうかなぁ。
などと思って離婚して三年。
モテなかった。
浮いた話どころか、寄ってくる男がいなかった。
独身男性は周りにいるのだが、モテない。そもそもモテないのにシングルマザーだから何ということもなく。結局はその人自身であって、離婚していようが未婚だろうが関係ないのだなぁとつくづく思ったのだった。
モテると言ったお兄さんも、何だかんだで食いつかないのだから……これからも安心安全なシングルマザーでいれるようである。
しかし、この後面倒な事が起きた。
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