あの日々とさよならとでんぐり返し
木目野ダルマ
あの日々とさよならとでんぐり返し
目が覚めると涙が出ていることがある。
何のことはない、それはただ、ただ、懐かしい人を見つめる夢で。
ただの夢なら、よかったのにって思う。
想像、妄想、空想、夢物語、アナタがこの世にいない人だったなら。
もう、戻る事も交わる事の無い私達は、すれ違ってもきっと気づけないくらい変わってしまった。
いつものタバコのおんなじ香りで「クソ」と思う。
車の助手席から眺める景色に「クソ」と思う。
自宅の傍にある神社の桜を眺めて「クソ」と思う。
アナタと通った道を見て、思い出せない会話に心のどこかでほっとする。
思い出は綺麗だ。ただのじゃれ合いが美しく、喧嘩ですら美化される。
互いをどこか双子みたいだと思っていた私達。
「あの時アナタがあぁ言ったのは、私のためだった」
なんて、後になって気が付いて、無意味に口に出して。それがどれくらい意味の無い事なのか、気付かないふりをして。それでも、声を出すことを止められなくて。
今の、アナタが居ない私の全てが嘘みたいだ。
あの頃だけが幸せだったなんて言うつもりはないけれど、アナタの声を聴きたいと思う私が居るのは真実で。
アナタが笑う顔を眺めて、アナタの歪む顔を笑って、手を繋いだ時を泣いて、微笑んだあの日を、いつかまたとサヨナラしたあの瞬間を何度も、何度も、繰り返して。そして私はまたこの朝日で泣く。
幼かった背中を覚えている。
大人になった声も知っている。
私の知らないアナタがいることも、アナタの隣に誰も居ないことも。
ほくそ笑んでいる訳じゃない。
どうか忘れて、と思うほど、アナタを愛している。偽物の私のカタワレ。
子供と一緒にでんぐり返ししたその先に、過去と未来のアナタが居ないことを、私は心の底から望んでいる。
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