第6話蓮花の寺

したたる雨の一粒一粒を甘露とし、生をつなぐ僧侶が住まうという古寺を訪ねたのは今から三年前になる。僧侶は長い髪もそのままに、一見して生臭とも思われたが、ひとたび写経をすれば、筆で記された文字から次から次へと御仏が生まれるというので、生仏と崇められていたのだった。生来体が弱く、病に侵された少年の頃に夢見た天人から筆を授けられたといい、その筆で生み出す書は、あの弘法大師にも匹敵するという。夜の帳が降りても、僧侶は雨粒を含むだけで、私に差し出されたのは蓮の葉に置いた朝露のみ。到底空腹はしのげそうにない。僧侶はふっと笑むと、一幅の大輪の蓮を描き、私に贈ったのだった。夜が明けると、それきり古寺は夢まぼろしのように霧の彼方に隠れ、私は蓮の画を持ってこの地を後にしたが、鑑定士に依頼したところ、数百年前に描かれたものだろうと判ぜられた。

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