第2話

人間界に降りるには手続きが必要になる。死神界と人間界を繋ぐエレベーター。そこの入り口に書類を提出して、社員証を見せて終わり。帰ってくるまでの期間は1ヶ月。それ以上を超えてはならない。

超えたらどうなるか…僕には想像もつかないし、なった死神も知らない。

まあ、超えなければいいだけの話だ。

「逝ってらっしゃい」

「逝ってきます」

馴染みの顔の受付嬢に挨拶して、エレベーターに乗り込む。真っ黒なその箱には電気はついておらず、扉が閉まれば何も見えなくなる。

そのまましばらくじっとしてると機械が作動した音が聞こえ、体に浮遊感が生まれる。

チーンッと鳴った音に目を開けると、そこは紛れもなく人間界だった。

騒がしい音。

忙しなく動き回る人、人、人。

どうやら僕は人間界の中でも都会に下りたらしい。

今回の魂は、都会の人間か。

前回は田舎のおばあちゃんの魂だった。

入院してたベッドの傍に降りると、僕と目を合わせ「随分可愛らしいお迎えねえ」と微笑んだ。

そして数日と待たずに死んだ。

魂となっておばあちゃんの手を引いて、僕はあの世への入り口を開く。

そして閻魔大王様の部下たちにおばあちゃんを引き渡すと、僕の仕事は終わる。

あとは報告書を書いたりもするけれど、それだけだ。

基本的に、魂のお迎えは簡単だった。

さて、今回の魂もぱっぱと終わらせて、天国の温泉ツアーにでも行こうかな。

そんな呑気なことを考えながら、僕は鞄から白咲檬架についての書類を取り出した。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る