第1話

「いいか、健太。「喜怒哀楽」の感情を無くしちゃダメだぞ。そうなっては人としてお終いだ」

暗闇の中、40〜50代くらいの男性の声が聞こえた。

そして、そこからすぐにノイズが入り、

「それは違う。人間に感情なんていらない。必要とするなら、それは「怒」の感情だけだ。何故なら・・・」

今度は、僕と同い年くらいの声が聞こえ、暗闇から突如手が出現し、僕の方へと手が伸びてきた。

「うあぁぁぁ!!」

その恐怖から目が覚め、僕は上体を勢いよく起こした。

「はぁ、はぁ、はぁ・・・、はぁぁぁぁ」

俯きながら、荒い呼吸を整え顔に手を当てた。

またこの夢・・・、これで何回目なんだ?そもそも、あの声は一体誰なんだ。

そんな疑問を抱いていると、

ピピピピッ、ピピピピッ、ピピピピッ・・・

目覚まし時計のアラームが後ろから聞こえ、僕は後ろは振り向きボタンを押して鳴り続けるアラームを止めた。

もう7時か、起きよう。

布団から出て、制服に着替え鞄を持った僕は部屋を出て居間へ向かった。


居間に入って鞄をソファーに置き、テレビの電源を入れキッチンで朝食の準備をしたパンをトーストで焼いている間、目玉焼きを作っていると、

「昨日、20代男性が何者かに刃物で切りつけられるといった時間が発生しました。犯人は未だ捕まっておらず、警察は犯人の行方を捜しています」

また殺人、これで何ヶ月目になるんだ?

「伊藤さん、この殺人どう見ますか?」

アナウンサーは、隣に座る男性に質問をした。

「非常に興味深い・・・いえ、おかしな事件ですよね。このデンジャーブレスレットができて早数年経ちますが、このブレスレットが出来てから殺人や強盗といった悪質な事件は終息を迎えたと思ったのですがね」

デンジャーブレスレット。生まれた時にこのブレスレットははめられ、悪質な事をやればこのブレスレットが脈拍などから感じ取りブレスレットから発せられる電波を衛星がキャッチし居場所を特定、その居場所は警察に送られるといった、そんな便利な代物が数年前に開発され、適用された。もちろん、開発前に生まれた人も適用と同時に付けられた。

しかし、ここ数ヶ月で同様の事件が多発している。

犯人にもブレスレットが付いているはずだから、すぐに衛星で感知されて捕まるはずなのに。

「そして、何より不思議なのが、死体の側には必ず彼岸花が置いてあることですね。この時期には咲かないはずの花をどうして持っているのか、それが不思議ですね」

確かに、それも不可思議だよな。彼岸花は通常、春と秋の2回に分けて咲き、春分の日と秋分の日を挟んだ3日間の計7日間の時期にしか咲かないはずなのに。

そんなことを思いながら、出来上がった朝食を食べて食器を洗い、テレビを切って廊下を挟んだところにある仏間へ向かった。仏壇の前にある座布団に座り、

父さん、母さん。おはよう。今日も学校へ行ってくるね。

そう心の中で会話をし、仏間を離れた。

さて、今日も元気に学校へ行きますか。

気持ちを切り替え、僕は家を後にし学校へ向かった。


学校に着いて教室に入ると、何やら教室が騒がしかった。近くにいるクラスメイトに、

「何でこんなにざわついているんだ?」

その問いにクラスメイトは、

「お前も見ただろ?朝の事件のニュースの事だよ」

「あぁ、あれか」

「あのブレスレットを付けておきながら、よく捕まらないもんだよな」

確かに、あのブレスレットは衛星と繋がっていて、たとえ海外に逃げようと必ず捕まってしまうし、それに一世紀前と違って防犯カメラの数も倍以上になっている。そんな中で捕まらないなんて、もしかして犯人は・・・。

険しい顔で考え込んでいると、

「どうしたんだよ健太。何か知ってるのか?」

「何か知ってたら、とっくに教えてるよ」

「そうだよな」

僕は窓際にある自分の席に向かい、カバンをフックにかけ椅子に座った。

そして窓の外に広がる青空を見上げながら、

まさか・・・な。

あの可能性を思い出しながら、今日の学校生活が始まった。


時刻は午後3時半。

授業に集中できず、気がついたら放課後になっていた。帰宅部である僕は家に帰ろうと廊下を歩いていると、ある部活の看板が目に付いた。

「オカルト研究部か」

部室の前に立ち尽くしていると、

「いいわよ。入りなさい」

部屋の中から声がし、僕は何故かオカルト研究部の扉の取っ手を掴み、開けた。

あれ、どうして僕は扉に手を・・・。そんなことは考えてなかったのに。

「いらっしゃい、そしておめでとう。あなたは選ばれたわ」

僕をもてなしてくれたのは、この学校の生徒会長だった。それと、もう1人の人物がいた。制服のボタンは上から3番目まで外し、ニーハイソックスは全て1番下まで下げていた。校内一の不良として知られている西田茜である。

何がおめでとう何だ?選ばれたって何だ?

「あの、それはどういう・・・」

僕は現状を理解できず、頭の中がこんがらがっていた。

「この部室は本来、普通の人には見えないの。結界を張って隠しているから。部室の横に貼ってある札が見えなかったかしら」

確かに、札が貼ってあるのが見えたけど。

「結界を張っているにもかかわらず、この部室を見つけることができた。ということは、あなたは霊感がみんなより強いということを指すわ」

確かに、霊感が強いという自覚はあった。昔は、それでよくからかわれとったっけ。幻覚を見ているだなの、幻聴を聞いているだの、挙げ句の果てに頭がおかしいんじゃないかとまで言われたこともあった。

僕は霊が見えること以外、特筆するものが無かった。勉学も普通、運動だって普通、何をやらせても普通だった。

「これは強制ではなく任意なのだけれど、あなたにこの部に入部する許可が出たわ。あなたは確かに帰宅部よね。そして、稀に様々な部活から助っ人を頼まれる。そうよね?」

「はい」

「それなら、少し考えてくれないかしら。この部に入れば、あなたの思っている事が解決するかもしれないわね」

会長は微笑みながら、僕にそう言った。

僕の考えてることが分かるような口ぶりだな。

「分かりました。考えておきます」

「いい返事を期待しているわね」

一礼して、僕は部室を後にした。

すると、ずっと黙っていた西田茜が、机に両足を乗せて足を組み、

「ほんとにあんな奴を入れるつもりなのかよ。見た感じひ弱で、トロそうなやつに見えるけど」

会長は校門に向かって歩く僕を窓越しから見つめながら、

「本当はあなたも気づいているのでしょう?確かに私たちがやっている事は、表の彼にとっては相当刺激的になるかもしれいない。けれど、彼の心の奥はどこか冷徹で、私たちには見えない何かを持っている」

「まぁ、あんたがそう思ったんなら、あたしはそれを信じる事にするよ」

「それは、彼を認めるに等しい事になるのだけれど、それでもいいのかしら?」

「いいよ。そうしないと、これから先やりにくいだろうからね」

「ありがとう」

そんな会話が繰り広げられていることもつゆ知らず、僕は家へと向かった。





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ビフォーアフター〜人生は人それぞれ〜 御田 九郎 @otaku123

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