第8話 7
私は彼に、恋をしていた。
彼の人懐っこい笑顔に、
彼の悲しそうな自虐的な笑みに、
私は、恋をしていた。
彼の二面性に、恋をしていた。
彼の全てに、恋をしていた。
彼、藤村真と最初に関わりを持ったのは1年前のことである。私もまだ、彼を屍にしてしまうほど行動的ではなかったころだ。
その頃の私は今ほど怠惰ではなかったようで、横浜市内の予備校で自主的にセンター模試を受けていた。その時、隣の席にいたのが彼だった。そう、たまたま彼だったのだ。
「おっ、ネバーエンディングストーリーじゃん」
彼がこっちを向いてニコニコと笑いながら話しかけてくる。
「ごめん、音漏れしてた?」
私はすぐさまイアホンを外して彼に聞き返した。
「大丈夫、覗いただけだから」
彼は笑顔のまま私の携帯を覗いていたことを語る。彼は話を振ってもらいたそうにそのままこっちを見てるので、
「映画、見たことあるの?」
と聞いた。
「モチのロンっしょ。映画部だよ。僕」
「藤村くん、確か写真部じゃないの? そして映画部なんてうちの学校にあった?」
彼の名前は、知っていた。
「非公式だよ。非公式。部員は君と僕。今作った」
「なにそれ」
私はクスクスと笑った。彼と心が通じ合った気がした。
彼の笑顔は私の心をあったかくさせる。冬の日独特の過剰な室内暖房も相まって、その日の私は火照っていたように思える。
その日は休み時間から帰り道に至るまで、彼と映画のことを中心に語り合った。
彼と再び関わることとなったのはその十ヶ月後、例のクリームを作り上げる、数日前のことだった。
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