一日転生録ムショク

あかさや

第1話

 俺は、とある地下帝国で強制労働させられている。


 地下に落ちたのにはたいした理由はない。知り合いの保証人になって、その知り合いが闇金で借金をしてそのまま蒸発したせいだ。ありきたりの理由……そして、どうしようもない話……! 救えぬクズ……!


 地下での労働は1日12時間。日曜以外は休みなし。朝から晩まで暑くて臭くて不衛生な地下で泥や岩や重機と戯れている。

 当然、労災などない。怪我やら病気になったところで誰も助けてくれない……!動けなくなったらゴミ同然……まさに無常……!


 そんな救いのない世界に落ちた俺だが、最近面白い力を手に入れた。たまに飲むビールと柿ピーくらいしか楽しみのない地下では願ってもない僥倖……まさに天啓……!


 その力というのは――なんというのか、最近外の世界で流行っているらしい「異世界転生」ってやつだ。

 どうしてそんな力を手に入れたのかは俺にもよくわからない。

 いつも通り、地下で岩や土や重機と戯れているときに、ちょっとした石が俺の頭にぶつかって倒れたのがきっかけだと思う。


 その日を境に――あと10年は続いたであろう地下での強制労働に一筋の光が見えた。まさに救い……! 圧倒的感謝……!


 だが、異世界転生といっても一日限定だ。外で流行っているやつみたいにずっといれるわけじゃないが――それでもありがたいのは確か。


 一日だけまったく知らぬ別の世界の誰かとなる。俺はその力を使って本来ならどうやっても見れるはずのない色々な世界を旅してきた。

 なによりもいいのは、1日転生していた間の俺は、勝手に地下での労働をしてくれることだ。過酷な地下の労働を1日だけ逃れられる……これがなによりも嬉しい……!


 とはいっても、1日転生は頻繁には使えない。

 使えても一週間に一度ってところだ。それ以上はどうなっているのか、使おうとしても能力が発動しない。

 それでも、普段は週に1日しかない休みがもう1日増えると思うと、かなりいい能力だ。

 無論、転生した先でも危険な場所は多いが――その経験は少ない。大抵の場合、大きな街を適当にぶらぶらしていれば特に危険もなく1日が終わる。マジで素晴らしい能力……!


 そろそろ明日あたり、能力が使えるようになる。

 最近、クレイジーでサディストの会長の機嫌が悪いのか、地下でも締めつけ厳しくなっている。

 そろそろ逃げたいところ……まさに頃合い……!

 さて、次はどんな異世界が俺の前に現れるのだろうか?

 いまからそれが楽しみだ。



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一日転生録ムショク あかさや @aksyaksy8870

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