魔王安倍晴明

森山智仁

暴漢

 いざ陰茎を挿し入れようという時、晴明が正体を明かしたのは、ひとえに女の美しさの為であった。

「見ろ。そなたを抱いているのは卑しき山賊風情ではない。気高き陰陽師だ」

 饐えた匂いのする荒くれ者が涼やかな瞳の青年へと瞬時に姿を変えたことに、女は大きな瞳をさらに大きく見開いて驚きを示した。しかし声は上がらない。既に口封じの術を施してある。

 陰茎を挿し入れ、ゆっくりと、繰り返し腰を突く。その度に、周囲の茂みががさがさと乾いた音を立てる。

「変化は私が最も得意とする術の一つ。先刻そなたが不意に見上げた一羽の鳶、あれも私だ」

 市女笠の下の瓜実顔。神々しいほどの白い肌。空から一目見た瞬間、胸がときめいた。百年以上も生きている自分にまだそんな情動が残されているとは意外なことであった。

「そなたをここへ誘った老婆は、式神と呼ばれているもの。呪力に形を与え、自在に使役できる。まこと陰陽術とは重宝なものよ」

 饒舌になっていた。こうして体を奪いながらも、心は奪われているのだ。

「この晴明、肉欲の捌け口に不自由はしておらぬ。されど、呼ばれて来るような女どもは皆、趣きに欠く。恥じらいというものがない。そこで、様々に姿を変えながら素人女を物色しておったというわけだ」

 明かしたところで、女の心が晴明を許し、受け入れるはずもない。が、一介の暴漢ではなく、阿倍晴明自身として、女の記憶に残りたかった。

 屈辱を噛み締めるように固く結ばれている唇を強引に割り、舌を吸う。花の蕾のような乳首を掌で潰すように愛撫する。そして、腰の動きを徐々に速める。

 しばらくの後、陰茎から精が放たれ、女の目からは涙がこぼれた。

「肉欲は何の為にある?」

 繋がったまま、女の髪を指で梳きつつ、晴明は囁くように言った。

「無論、子孫繁栄の為だ。もしこの種が実を結べば、その子はきっと陰陽術の才を持って生まれ、都の平和に貢献するであろう。となれば、母たるそなたもまた、世の為人の為に一役買うことになるわけだ」

 晴明が身を起こすと、呪力で織られた衣はひとりでに主の体を包む。

「月のものが来ぬことを願っておれ」

 男が愛し、女が産む。それが自然の摂理だ。合意など必要ない。

 乱れた着衣を直そうともせず、秘所から残滓を垂れ流したまま虚空を見上げている女を尻目に、晴明は再び鳶に変化して、藪の中から飛び立った。

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