SF創作講座 2018 梗概集
フジ・ナカハラ
第1回 から揚げと Let It Be
ユウジは、唐揚げを作るレイナの後ろ姿を見ていた。それは、ユウジにとって百二十年ぶりの唐揚げだった。昔と同じ、油のはねる音や香ばしい匂いに、ユウジは当時を思い出す。
百二十年前、ユウジは運用が始まったばかりの
「できた」というレイナの声に、ユウジの意識は現実に戻る。彼女の作った料理は、
ユウジが覚醒したのは、一週間前である。目覚めるとすぐ、癌が治ったこと、百二十年が経過したことを知らされた。その後、冷凍睡眠施設でリハビリすると同時に、現代について学んだ。世界は大きく変わっていた。人間は働かなくてもよく、ベーシックインカムだけで豊かな生活を送れるようになっていた。それを可能にしたのは、“
ユウジが施設から出る時、レイナという人物が彼との面会を求めていた。不思議に思った彼は、面会を受け入れ、レイナに会う。そして、なぜ自分に会いたかったのかきいた。彼女は、「私の料理を食べてくれると思ったから」といい、それ以上は料理を食べた後だといって聞かなかった。行くあてのなかったユウジは、仕方なく彼女についていった。
レイナが、約束通りユウジの質問に答える。「
「料理だけじゃない。小説や音楽も同じ。黒魔術の方が、人間なんかよりずっとうまく作るわ」
ユウジは、彼女の言葉にショックを受ける。現代には、プロミュージシャンはいない。黒魔術が、聴く人にとって最適な音楽をその場で作り出す。誰もユウジの作った音楽など聞かない。
翌朝、ユウジは起きることができなかった。レイナの朝食を断り、何のためにこの時代に来たか自問自答する。そんな時、レイナがある物を持ってくる。それは、ギターだった。ユウジは、おもむろにビートルズの“Let It Be”を歌う。
「とてもいい歌ね」
「君は、僕の音楽を聞いてくれるかい?」
「ええ、あなたが私の料理を食べてくれる限り」
## アピール文
きっかけは、RebuildというPodcastで聞いた話です。そこでは、人間がしなくていいことはAIで自動化されてどんどん便利になっていくけど、そうしてできた時間で私たちが本当にすべきことって何だろう、というようなことが話されていました。作品では、百二十年かけて自動化を極限まで押し進めます。その時、レイナとユウジに残ったのは、それぞれ料理と音楽でした。
自動化には、黒魔術というギミックを登場させました。これは、動くけどなぜ動くかよくわからないコンピュータプログラムを、日本語でも英語でも
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます