第十二話 信頼関係

 メイドの女性は、一旦、部屋を出る。

 もちろん、鍵をかけて。

 その時だ。

 レジスタンスのリーダーと遭遇したのは。

 アマリアの様子を見に来たのだろうか。

 メイドの女性は、静かに、頭を下げた。


「どうだ?聖女様の様子は」


「おとなしくしております。私に心を開いてくれたようですし」


「さすがじゃねぇか」


「い、いえ」


 やはり、アマリアの事が気になっているようだ。

 メイドの女性に問いかける。

 メイドの女性は、正直に答えた。

 確かに、アマリアは、大人しくしている。

 彼女にも、心を開いているようだ。

 これで、逃げる事はなくなるかもしれない。

 そう言いたいのだろう。

 それを聞いたレジスタンスのリーダーは、笑った。

 安堵しているようだ。

 褒められた彼女は、頬を赤く染めながらも、うなずいた。


「頼んだぜ」


「はい」


 レジスタンスのリーダーに頼られたメイドの女性は、微笑む。

 信頼されている事に喜びを感じているようであった。



 ヴィオレットとラストは、街中を歩いている。

 フードを深くかぶって。

 裏切り者を探しているようだ。


「あー、辛い」


「まだ、治らないのか?」


「み、みたい」


 ラストは、まだ、二日酔いが治らないようだ。

 ヴィオレットは、尋ねるが、ラストは、申し訳なさそうにうなずいた。

 一応、反省はしているらしい。

 飲み過ぎたと。


「にしてもさ、どうやって、探せって言うんだよ。無理な気がしてきたんだけど」


「確かにな。酒場の奴らの中に裏切り者がいるとは、思えない」


 ラストは、頭を抱えた。

 裏切り者を探せと依頼されたが、この人ごみの中で、探せるわけがない。 

 無謀ではないかと思えるほどに。

 ヴィオレットも、同じことを思っているらしい。

 実は、酒場の方へ立ち寄ったのだ。

 裏切り者がいないか調べる為に。

 妖しい奴を見かけたかどうかを尋ねてみたが、酒場にいた誰もが、いつも通りの様子だ。

 動揺した様子は見せていない。

 ポーカーフェイスと言う可能性もあるが、どう見ても、騙しているようには、みえなかった 。


「だとしたら、誰だ?」


「さあな」


 ラストは、ヴィオレットに尋ねるが、ヴィオレットも、見当がついていないらしい。

 その時であった。

 何者かが、ヴィオレットに近づこうとしている。

 ラストは、その事に気付いたのだ。

 ただならぬ殺気を感じ取って。


「待て、ヴィオレット」


 ラストは、ヴィオレットのフードをつかみ、強引に、自分の方へと引き寄せる。

 その直後、男性が、ヴィオレットに向けて、短剣で刺そうとしていた。

 ギリギリのところで、ヴィオレットは、ラストに救われたのだ。

 ラストは、短剣を引き抜き、体を回転させ、男性の腕を切り裂いた。


「ぎゃっ!!」


 男性は、悲鳴を上げる。

 すると、複数の男性と女性が、ヴィオレットとラストの周りを取り囲んだ。

 まるで、捕らえようとしているかのようだ。


「おいおい、もう、裏切り者のおでましか?」


 ラストは、にっと笑いながら、呟く。

 裏切り者が、自ら出てきてくれたと喜んでいるのだろう。

 反対に、ヴィオレットは、警戒心を露わにしていた。


「き、貴様が、裏切りのヴァルキュリアだな!?」


「だったら、どうした?」


 女性が、ヴィオレットに問い詰める。

 怯えながらも。

 ヴィオレットは、冷静な表情を浮かべて、聞き返した。


「お前を連れていけば、ここから、出してもらえるらしい。だから、大人しくしろ!!」


「その割には、物騒なもん、持ってんじゃん」


「黙れ!!」


 男性が、答える。 

 ヴィオレットを帝国に連れていけば、このエリアから出してもらえると言われたらしい。

 帝国兵が、そそのかしたのだろうか。

 それとも、裏切り者が、教えたのだろうか。

 ヴィオレットを捕らえる為に。

 もちろん、帝国が約束を守るとは、ヴィオレットも、ラストも思っていないが。

 彼らは、短剣や剣をヴィオレットに向けている。

 どう見ても、捕らえようとはしていない。

 殺すつもりでいるくらいだ。

 ラストが、挑発すると、彼らは、ヴィオレットとラストに襲い掛かる。

 だが、ヴィオレットとラストは、いとも簡単に、回避し、彼らに、殴りかかった。


「ぐへっ!!」


「かはっ!!」


 ヴィオレットとラストに殴られ、地面にたたきつけられた。

 女性であっても、容赦なしないようだ。

 彼らは、怯えながら、起き上がった。


「この程度で、俺達を攫えると思ってんの?」


「もう少し、考えてから、行動すべきだったな」


 ヴィオレットとラストは、余裕の表情で語る。

 一般の帝国の民が、自分達を捕らえられるはずがない。

 戦闘訓練を受けたものなら、別だが。

 襲撃するなら、気付かれないようにすべきだったとヴィオレットは、忠告した。


「つ、強すぎる」


「に、逃げるぞ!!」


 襲撃した者達は、ヴィオレット達は、強すぎると察し、殺される前に、逃げ始めた。

 だが、ラストが、逃すはずもなく、一人の男性に足払いをかけ、男性は、地面に倒れる。

 すると、ラストは、馬乗りになり、すぐさま、短剣で、男性の手を突き刺した。


「ぎゃああああっ!!」


 男性が、悲鳴を上げる。

 ラストが、深く刺しているからであろう。

 やはり、容赦ない。

 飄々とした態度を取りながらも、彼は、冷酷だ。

 ヴィオレットは、改めて、感じていた。


「待て待て、このまま、逃げられると思ってんのか?」


「うう……」


 ラストは、逃がすはずがない。

 しっかりと、短剣を握りしめている。

 このまま、男性を問い詰めるつもりなのだろう。

 男性は、後悔し、うなだれていた。


「なんで、こんな行動を起こした?」


「……」


 ラストは、問いただす。

 だが、男性は、答えようとしない。

 黙秘するつもりなのだろう。

 仲間の為なのか、それとも、誰かに命じられたからなのかは、定かではないが。


「答えろ」


「ぎゃああああっ!!」


 ラストは、さらに、短剣に力を込めて押す。

 手に激痛が走り、男性は、悲鳴を上げた。

 それも、涙目になりながら。

 男性が、黙秘した為、苛立ったのだろう。


「わ、わかった!!わかったから!!」


 男性は、ついに、観念し、答えると宣言した。

 ラストは、ため息をつき、強引に短剣を引き抜く。

 男性が、涙を流しながら、痛みにもだえた。


「お、教えてもらったんだ」


「誰にだ?」


「そ、それは……」

 

 男性は、教えてもらったと答える。

 だが、そんな事は、ヴィオレットも、ラストもわかっている。

 問題は、誰に、教えてもらったかだ。

 帝国兵なのか、それとも、裏切り者なのか。

 だが、男性は、答えようとしない。

 ためらっているようだ。


「もう一度、痛い目みるか?」


「ま、待て。言わないとは言っていないぞ!!」


 ラストは、苛立ったのか、短剣を男性に見せつける。

 男性の体を刺すぞと脅して。

 すると、男性は、焦燥に駆られ始めた。

 もう、痛い目に合うのは、勘弁なのだろう。

 男性の体が震え始める。

 ラストは、今度は、どこを刺すのかと、怯えているかのようだ。


「じゃあ、話せよ。俺、待つの嫌いなんだ」


「わ、わかった……」


 ラストは、どすの聞いた声で、脅す。

 相当、苛立っているようだ。

 男性は、怯えながら、語る。

 誰に、教えられたのか。

 名はわからないようだが、特徴的な服を着ていたらしい。

 その服の特徴を聞いたヴィオレットとラストは、驚き、目を見開いた。



 アマリアは、メイドの女性と語り合っている。

 王宮エリアでの生活を話しているようだ。


「そうなの、本当にあの時は、面白かったわ」


「面白いお話ですね」


 自然に会話が弾むアマリア達。

 すっかり、仲良くなっているようだ。

 アマリアは、心の拠り所を見つけた気がした。

 連れ去られてしまったが、悪い人だけではないのだと。


「私も、王宮エリアに行ってみたいです。素敵な所なんでしょう?」


「え、ええ。でも……」


 メイドの女性は、ふと、本音を打ち明けるかのように、語る。

 一度でいいから、王宮エリアに行ってみたくなったのだろう。

 だが、アマリアは、歯切れの悪い返事をしてしまう。

 今の状態では、難しいを思っているのだろう。

 帝国の民は、王宮エリアには入れない。

 ヴァルキュリアの誕生の儀式以外は。

 だからこそ、アマリアは、心が痛んだ。

 自分は、穏やかな生活をしていたが、彼女は、過酷な状況で生きてきたのだと思うと。


「なんて、嘘ですよ。本気で、行こうとは思っていませんから」


「は、はい……」


 メイドの女性は、嘘だと告げる。

 だが、彼女は、本気で生きたがっている気がした。

 ゆえに、アマリアは、なんと、答えたらいいか、迷ってしまった。

 その時であった。 

 足音が聞こえてきたのは。

 それも、バタバタと。


「何やら騒がしくなりましたね」


「え、ええ」


 アマリア達は、察したようだ。

 何か、起こったのではないかと。

 まるで、急いでいるかのように駆けていく音が聞こえたからであろう。

 メイドの女性は、警戒しながら、ドアを開ける。

 すると、男性が、慌てて、部屋に入り、メイドの女性は、驚いて、後退した。


「どうされたんですか?」


「ま、まずいぞ」


「何がです?」


 男性は、血相を変えている。

 何かあったのだろうか。

 メイドの女性は、心を落ち着かせて、尋ねた。


「聖女の居場所がばれたんだ」


「え!?」


 アマリア達は、驚く。

 なんと、アマリアの居場所が、知られてしまったようだ。

 それも、何者かに。

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