第七話 暗殺者と言う言葉

 レジスタンスのリーダーから依頼を受けたヴィオレットとラストは、酒場を出て、アメジストエリアを歩いている。

 アマリアは、酒場に残しておいた。

 もちろん、これから、帝国兵を殺すとは、言わずに。

 アマリアは、反論しようとしたが、ラストが、すぐさま、ドアを閉め、鍵をかけた。

 アマリアが、脱走しないようにだ。

 ヴィオレットとラストは、フードをかぶらず、街中を歩く。

 アメジストエリアの住人が、ヴィオレットとラストを受け入れているからでもあるが、自分の正体をさらけ出し、帝国兵をおびき出すためでもあった。


「にしたってよぉ。そんな簡単に見つかるわけねぇっての。いくら、俺が、元暗殺者だからってよ」


 ラストは、少々、不満のようだ。

 自分が、暗殺者だからと言って、そう簡単に、変装している帝国兵を見つけられるわけがないと言いたいのだろう。

 やはり、ラストでさえも、人ごみの中から、帝国兵を見抜くことは、不可能に等しいのだろうか。


「そうか?お前なら、見抜けると思ったんだが」


「買いかぶり過ぎだって」


 ヴィオレットも、ラストなら、見抜けると思っているようだ。

 だが、ラストは、買いかぶり過ぎだと告げる。

 それほど、自分の能力は、高くないと言いたいのだろうか。


「まぁ、やるけどさ」


 ラストは、ため息交じりに呟く。

 依頼は、引き受けた以上、こなすつもりだ。

 と言っても、少々、骨がおる依頼ではあるが。

 だが、その時であった。


「ん?」


 ラストが、突如、立ち止まって、振り向く。

 何かを察したのだろうか。

 ヴィオレットも、ラストの様子に気付き、立ち止まって振り向いた。


「どうした?」


「いや、何でもない」


 ラストに尋ねるヴィオレット。

 だが、ラストは、何でもないと答えて、歩き始める。

 何かを感じ取ったように思えたのだが、違うのだろうか。

 ヴィオレットは、まだ、ラストの真意が読み取れない。

 ラストが、読み取らせないように、ふざけた口調で話すからであろう。 

 ゆえに、ヴィオレットは、ラストの事を信用していない。

 利害は一致ている為、行動しているだけであった。

 ヴィオレットは、ラストと共に歩く。

 ラストが、いつ、行動を起こすか、観察しながら。



 監禁されたアマリアは、頬杖をつく。

 頭を抱えて悩んでいるようだ。


「はぁ、これから、どうなるのでしょうか……」


 アマリアは、ため息をついた。

 不安に駆られているのだろう。

 ヴィオレットとラストに連れ去られ、しかも、彼女達は、帝国を滅ぼそうとしている。

 なぜなのかは、わからない。

 だからこそ、不安であった。


――皆、どうしてるのでしょうか……。あの子は……。


 アマリアは、心配しているようだ。

 王宮にいる兵士達やカレン達。

 そして、ヴァルキュリアになるはずだった少女の事を。

 ヴァルキュリアになれず、嘆いているかもしれない。

 絶望していたらどうしよう。

 アマリアは、その事ばかり、考えていた。


――やっぱり、戻らなければ。何とかして……。

 

 アマリアは、決意を固めたようだ。

 ここを抜け出し、王宮エリアに戻る事を。

 ヴィオレット達事を話すかどうかは、まだ、決めていない。

 帝国は、滅んではいけない。

 だが、妹のように接してきたヴィオレットを失いたくない。

 ゆえに、アマリアは、迷っていた。

 その時であった。


「なぁ、聞いたか?」


「何がだよ」


 男性達の声が聞こえる。

 酒場にいた者達のようだ。

 何を話しているのだろうか。

 アマリアは、静かに、ドアに歩み寄り、耳をドアに押し当てた。


「ヴィオレット達が、帝国兵を殺してくれるってさ」


「マジでか?」


「おお、ボスが、依頼してくれたらしいぜ」


 男性達は、アマリアが、聞いているとは知らずに、語る。

 もう、レジスタンスのリーダーが、ヴィオレット達に、帝国兵の殺害を依頼した事は、知っているようだ。

 ゆえに、安心して、話してしまったのだろう。


「え?」


 アマリアは、驚き、動揺する。

 ヴィオレット達は、帝国兵を殺そうとしていると知ってしまい。


「けどよ、変装してるんだろ?どうやって、探すつもりだよ」


「そりゃあ、元暗殺者が、何とかしてくれるだろ」


「なるほどな」


 男性達は、帝国兵をどうやって殺すかと推測しているようだ。

 民衆に紛れ込んでいる帝国兵を殺す事は、たやすいことではない。

 ましてや、変装しているなら、尚更であろう。

 だが、彼らは、元暗殺者であるラストなら、何とかしてくれると思い込んでいるらしい。

 それほど、ラストを信用しているのであろう。


「暗殺者?」


 「暗殺者」と言う言葉を聞いたアマリアは、思考を巡らせる。

 どこかで聞いたことがある気がして。

 その時だ。

 アマリアは、ある事を思い出したのは。

 それは、血を流して倒れる人々。

 フードをかぶって、顔を隠した男の事を。

 その男は、血に濡れた短剣を手にしていた。


「まさか、彼は……。あの時の?」


 アマリアは、思い出したようだ。

 ラストが、何者なのかを。

 それゆえに、震えていた。

 過去を思い出し、恐れているのだろう。


――なんとか、しなければ……。


 アマリアは、ラストを食い止めようと決意する。 

 あの時を過ちを繰り返さないために。

 アマリアは、ドアノブを回すが、回らない。

 やはり、鍵がかけられているようだ。


――このドア、体当たりしたらどうなるのでしょうか……。


 アマリアは、ドアに体当たりし、ぶち破ろうとしているらしい。 

 ドアは、もろい。

 女性の力でも、簡単に、壊れるであろう。


――行くしかないようですね……。


 アマリアは、心を落ち着かせるために、息を吐く。

 決意を固めたようだ。

 ドアをぶち破り、ここから出る事を。

 他の部屋に入り、窓から、出れば、誰にも気付かれずに、脱出は可能かもしれない。  

 アマリアは、ドアから、一旦、離れ、地面を蹴る。 

 ドアをぶち破って、脱出する為に。



 アマリアが、行動を起こしているとは知らず、ヴィオレット達は、帝国兵を探し続けていた。

 路地裏に入って、他の場所へと向かっているようだ。


「で、見つかった?妖しい奴」


「私が、わかると思うか?」


「だよなぁ」


 ラストは、ヴィオレットに問いかける。

 ヴィオレットが、妖しい行動をしている者を見つけたのではないかと、思ったようだ。

 だが、ヴィオレットは、逆に、問う。

 自分が、見抜けると思うかと。

 聞かれたラストは、うなずいた。

 やはり、一筋縄ではいかないようだ。


「そっちは、どうなんだ?」


「そうだなぁ……」


 ヴィオレットは、ラストに問いかける。

 ラストは、頭をかきながら、呟いた。

 やはり、彼でさえも、見抜けないのだろうか。

 そう思っていた矢先、ラストが、踵を返し、走り始めた。


「っ!?」


 ヴィオレットは、驚愕し、振り向く。

 さすがに、困惑しているのだろう。

 ラストが、突如、行動を起こしたのだから。

 不意打ちをつかれてしまったかのような感覚に陥ったのだ。

 ラストは、一人の男性につかみかかり、そのまま、押し倒した。


「おわっ!!」


 男性は、驚いた様子で、仰向けになって倒れる。

 なんと、ヴィオレット達の背後に、男性がいたようだ。

 ヴィオレットも、気付いていなかったようで、驚く。

 ラストは、そのまま、短剣を引き抜き、男性の顔に向けた。


「よう、あんた、何者?」


「な、何を言って……」


 ラストは、男性に問いただす。

 何者かと。 

 まるで、一般の帝国の民だと思っていないようだ。 

 突然、押し倒され、短剣を突きつけられ、問われた男性は、困惑していた。


「俺が、わからないとでも思ったのか?さっきから、尾行してただろ?」


「っ!!」


 ラストは、気付いていたようだ。

 先ほどから、この男性が、尾行していた事に。

 本当だったようで、男性の顔が引きつる。

 彼の様子をうかがっていたヴィオレットも、見抜いた。

 男性が、何者であるかを。


「じゃあ、こいつが……」


「だろうな。まぁ、まだ、わからないけどさ」


 ヴィオレットとラストは、この男性が、帝国兵ではないかと推測しているらしい。

 と言っても、あくまで、推測だ。

 まだ、わからない。

 帝国兵に協力している者かもしれないのだから。


「ほら、立てよ。教えてもらおうじゃん」


「ちっ!!」


 ラストは、正体を暴くために、男性を強引に立ち上がらせる。

 だが、その時だ。

 男性が、魔法・バーニング・ショットを発動したのは。 

 火の弾は、ラストに襲い掛かった。


「くっ!!」


「ラスト!!」


 火の弾がラストの体に当たり、ラストは、苦悶の表情を受ける。

 ヴィオレットは、ラストの元へ駆け付けるが、男は、その間に、走って、逃げてしまった。


「ちっ。逃げられたか」


「どうする?」


「奴の顔は、覚えた。追いかけようぜ」


「……わかった」


 男性に逃げられ、苛立つラスト。

 ヴィオレットは、どうするのか、ラストに尋ねる。

 なんと、ラストは、男性の顔を覚えたらしい。 

 あの短時間で。

 さすがは、元暗殺者と言ったところであろうか。

 ヴィオレットとラストは、男性を追いかけることにした。



 その頃、酒場のマスターである女性は、アマリアの様子を見に行こうとしていた。


「はぁ、なんで、あたしが、あの女の世話なんてしなきゃいけないのよ」


 女性は、ラストに頼まれていたのだ。

 定期的にアマリアの様子を見てほしいと。

 ラストの頼みとは言え、あまり乗り気ではないようだ。

 おそらく、アマリアの事をよく思っていないからであろう。

 女性は、ため息をつき、アマリアがいる部屋の前に立ち止まった。


「入るわよ」


 女性は、ノックしながら、告げる。

 だが、反応がない。

 反抗しているのだろうか。

 女性は、そう感じ、苛立った。


「ちょっと、聞いてるの?」


 女性は、苛立ちながら、鍵を押し込む。

 だが、おかしい。

 鍵がうまく回らないのだ。

 まるで、壊れているかのようだ。


「え?」


 鍵がうまく回らず、女性は、困惑する。 

 嫌な予感がして、ドアを開けた。

 すると、アマリアの姿は、どこにもいなかった。

 アマリアは、すでに、酒場から脱走した後であった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る