ハチミツ色の日々

無月弟(無月蒼)

はじめましてご主人様

 いつからだろう。気が付けばボクは、その女の子のことが大好きになっていた。

 おっと、まずは自己紹介をしなくちゃね。ボクの名前はハチミツ。フサフサな焦げ茶色の毛をした、人間がゴールデンレトリーバーと呼んでいる種類の犬なんだ。

 さて、そんなボクには大好きな人がいる。それはボクの、ご主人様の女の子だ。


 ボクの一番古い記憶は四角くて白い、ガラス張りの箱の中にいる時のもの。箱の中はそんなに広くなかったから、走り回って遊ぶ事なんて出来ずに、ボクはお昼寝をしてばかりだった。

 そしてそんなある日、熱心にボクのことを見つめる女の子が現れた。ガラス越しにじっとこっちを見ている、小さな小さな女の子。あんまりじろじろ見てくるものだからボクもつい見つめ返して、少しの間睨めっこをしていた。

 そうしていると、女の子のお母さんがやってきて言ったんだ。


「あらあら、随分熱心に見てるのね。その子のこと、気に入っちゃった?」

「…うん」


 返事をしながらも、女の子の目はボクを向いたまま。ボクは嬉しかった。気に入ったなんて言われたのは初めてだったから。ボクが感謝の意を込めて「わん」と鳴いたら、その子はたちまち笑顔になった。

 その後女の子のお母さんが、いつもボクにご飯をくれているお兄さんと何かを話すと、お兄さんはボクを箱から出して女の子の所へ連れて行ってくれた。


「可愛い!触っても良いですか?」


 喜んだ様子の女の子はボクを抱きしめて、優しく頭を撫でてくれた。女の子はとても嬉しそうだったけど、嬉しいのはボクも同じ。だってこの子、とっても良い匂いがするんだもん。

 ボクは女の子に頭をこすりつけ精一杯の愛情表現をする。


「モフモフしてるー。あ、尻尾ふってる。やっぱり可愛いなー」


 しばらくそうしてじゃれ合った後、女の子はお母さんに言った。


「決めた。アタシこの子が良い!」


 何が良いのかはよく分からなかったけど、なんだかとっても嬉しい予感がする。


「あらあら、それじゃあ名前をつけなくちゃね。何が良いかしら?」

「うーん…ハチミツ!この子、ハチミツみたいな色をしてるもの。君の名前は、今日からハチミツだよ」


 ハチミツ。とっても甘そうで良い名前だ。

 ほどなくしてボクは、住み慣れた箱のお家を離れ、女の子の家で暮らすことになった。女の子は勿論、その子のお母さんもお父さんも、快くボクを迎えてくれた。

 この家、女の子と同じで良い匂いがする。ボクも今日からここで暮らせるんだって思うと、とってもワクワクしてきた。


「ハチミツ、これからよろしくね」


 女の子は満面の笑みで、ボクを撫でてくれた。



 こうして女の子は、ボクのご主人様になったのだ。

 ボクはいつもにこにこ笑っているご主人様のことが大好き。そしてご主人様も、きっとボクのことが大好きなのだろう。

 ご主人様、ボクはずっと、ご主人様と一緒にいるからね。

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