死んで異世界に来たのにろくなことにならねぇ

夢無 悲

プロローグ

第0話 俺の人生終了早っ!

 ゲーム(RPG)の世界というものはとても素晴らしい。自分のお気に入りのキャラを育てれば育てるほど強くなるというのは、やはりゲームでしか味わえない快感だと俺こと柏崎誠也かしざきせいや(17歳)は思う。


「ゲームの世界行きてーな」


 そんな虚しい独り言を呟いて俺は大好きなRPGをプレイする。そこで自分のパソコンに一通の通知が来ていることに気づく。


「…なに!?限定新作ゲームが発売だと!?これは買うしかないだろ!発売場所は、秋葉か……ちょっと遠いけど、たまには外に出て日に当たることも大切だな、うん。」


 そう言って俺は身支度を始める。そろそろ勘づいていると思うが俺はいわゆるニートだ。中学二年の頃から学校なんて行ってないし、代わりに毎日ゲーム三昧、典型的な引きこもりのダメ人間だ。いや、別に学校なんて行っても行かなくても俺はダメ人間だっただろうけど。

 生活は親の残していった遺産や親戚からの仕送りで何とかなっているが、それがいつまで続くか分からない。まあ、きっと俺は近いうちに死ぬんだろう。

 そうこうしてるうちに身支度が整った。俺はふと鏡を見る。改めて見ると、ガッカリするほど普通だと思う。身長は170cmぐらいで平均的だし、顔もそこら辺にいそうだ。

 ただしそれは、髪が金髪でなければの話だが。おっと、言っておくがこれは染めたんじゃないぞ地毛だ、地毛。俺の母親が髪が金髪のアメリカ人で、その遺伝子を濃く受け継いでしまったのだろう。おかげ俺は、近所では立派な不良だ。いや、正確には不良の様な扱いと言った方が正しいのか。

 ちなみに今の俺に両親はいない。父親は、俺が小5の時に交通事故で死に、母親は中二の時に過労死した。

 ……そういえば俺が引きこもり始めたのってこの頃だったっけ。


「……こんなこと考えるのはやめよう。そうだ、早くゲーム買いにいかないと。売り切れたら最悪だ。」


 そう言って俺は外に出る。うっ、日差しがキツイ。まだ五月なのに。ハァ、と大きな溜息をつきながら、行きたくないと思いながらも俺は渋々足を進める。

 外に出るのはとても久しぶりだな。外の景色は昔とあまり変わってない。まあ、昔と言っても3年ぐらいしか経ってないし、たかが3年で景色が見違えるほど都会なんかじゃない。むしろ田舎だ。

 まだ昼間だけど小さな子供が走り回ってる。そういえば今はゴールデンウィークだっけ。全く、若いもんが昼間から遊んでばかりしてないで、勉強をしろ、勉強を。

 ……完全にブーメランだったな。

 それにしても遠いな。駅まで歩いて40分もかかるなんて。じゃあ自転車で行けばいいと言われそうだが、俺は自転車に乗れないんだ。小学校の時、自転車で事故にあって足を折ったことがある。以来自転車に乗ることがトラウマになってしまっている。

 そういえば、さっきからずっと妙な視線を感じる。これも昔と変わってない。まあもう慣れたから今さら気にはしないが。道行く人は俺を見てはヒソヒソと話している。


『見て、柏崎さんのとこの』

『いやぁね〜、昼間からブラブラと遊んでばっかりで』


 全く、嫌われたもんだな。まあ、これももう慣れてしまったけど。慣れって怖いな。

 足が痛くなり始めた頃あたりでようやく駅が見えてきた。汗が目に入って視界がぼやける。あと、すごくしみる。


「ゼェ、ハァ、つ、着いた……」


 肌を焼くような日差しに耐えて俺はなんとか駅に着いた。それにしても駅に着くまでにもう疲労困憊とは、予想以上に貧弱になっている。帰るまでもつだろうか。いや、それどころか秋葉までたどり着けるかどうかも怪しくなってきた。


「やばい、電車が出ちまう、とりあえず急ごう」


 俺は無い体力を振り絞って駅のホームまで走った。ちょうどアナウンスが流れていた。どうやら間に合ったらしい。電車の音が聞こえて俺は一息着いた。

 その刹那、背中から強い衝撃が走った。

 気づいた時には俺の体は宙に浮いていた。俺は自分が今死ぬのだと理解した。

 そう思った途端に、世界がゆっくりに感じた。これが、いわゆる走馬灯というものみたいだ。

 思えば俺の人生短いくせにろくなことがなかったな。両親は死ぬし、不良と思われるし、どこの誰かも分からん奴に突き落とされるし、引きこもりは……ゲームが楽しかったからいいや。しかしそれを差し引いてもホントにろくな思い出がない。それにしても、まさか引きこもりが死ぬとはな。というか、家を出る前に近いうちに死ぬというフラグを立ててしまったことを思い出した。

 気づいた時には、もう目の前に電車が来ていた。


「くそっ、嫌だなこんな終わり方は……」


 自分の体から大きな破裂音のような音が聞こえた。どうやら吹き飛ばされたみたいだ。なぜか痛みは感じなかったが、次の瞬間、世界が真っ黒になって意識が手放された。






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