おりづる

音崎 琳

1.

 奈々は、折り紙が好きだった。

 奈々は生まれつき、家から出ることができない。理由は二つあって、第一に、身体があまりにも弱いせいだった。記憶のある十年足らず――そして話に聞く限り、それ以前も含めたこの十二年間――床を払っていた時間のほうが短い。

 そしてもう一つの理由は、彼女が、この家の「守り神」であるせいだった。

 彼女の首すじ、うなじのやや左側には、紫のあざがある。このあざを持つ子どもが、この家には時おり生まれるのだという。その子どもを大事に守り育てれば家はますます栄えると言い伝えられていて、だから奈々が家から出られないのは、生まれたときから決まっていたのだった。――そんなしきたりなんぞなくたって、彼女が外出するのは至極難しい話だったろうけれど。

 そんなわけでおいそれと外へも出られない奈々にとって、折り紙は恰好の遊び道具なのだった。

 奈々の小さな白い指がすいすいと動き、その下で、青い紙が複雑に折りたたまれていく。雫型になった紙の、ふくらんだほうを丁寧にひらいて形を整えると、奈々の手の中にあるのは朝顔だった。満足げに仕上がりを確かめてから、机の端に並べる。そこにはもう、空色から赤紫まで、色とりどりの朝顔が七つ八つ、咲いていた。

 午後の風が、軒先に吊るした風鈴を揺らす。蝉時雨に、澄んだ硝子の音が重なる。その響きにつられて奈々は、縁側から続く庭に目を遣った。夏の日射しを浴びて、外は目が痛いくらい眩しい。その庭の真ん中にあるものを捉えて、奈々の薄茶の双眸がまんまるになった。

 黒い瞳と、目が合った。

 奈々が口をひらくより先に、瞳の持ち主が声を上げた。奈々と年の頃はそう変わらないとみえる、少年だった。

「あんた、誰だ?」

 奈々は言うべき言葉を取られてしまって、口をぱくぱくさせる。少年は奈々の返答を待たずに続けた。

「ここ、どこ?」

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