日常はただ、そうなっている

雪霧

第1話そうなっているもの


「つまり火の起こし方は、昆虫によって人間に伝わったんだ」

深沢司はそう言い放った。僕は納得出来ずに反論する。

「昆虫が伝えたって…それは可能ではないだろう。」

昆虫が人間に伝えるということ自体もおかしいし、火の起こし方なんて理解できるわけが無い。

「だから、神話というか、火の起源についての話だよ?実際に起こったか起こってないかは関係ない。ただそうなっているというだけの話しさ。」

司はそういうが、やっぱり納得出来ない。

「納得出来ないって顔だな…。じゃあ、視点を変えるか。セイは歴史についてどう思う?」

歴史か。僕は歴史という教科が得意というわけではないが、好きではある。過去の人々の偉業を知るのはとても楽しい。

「歴史は大事だと思うよ。温故知新とも言うし、過去を知るのは将来のためにも大切なことだと思うし。」

僕は少しまともな事を言えた気がして、少し満足した気持ちになった。しかし、次の司の言葉で、また疑問を持つことになってしまう。

「そう言うと思った。でもなセイ、歴史だって本当は正しいものかわからないんだぜ?」

ん…どういうことだろう。

「過去の人々の行動や、出来事を知るってのは確かに大事なことだ。でも、俺らが学んだ歴史ってのが、本当の歴史かどうかはわからないってことだ。」

ますますわからん…。勉強しなきゃいけないことだから正しくなくていいのだろうか。

「つまりな、過去に起こった戦争とか権力者の暴挙とかで、本当の歴史の資料ってのが無くなったり、書き換えられたりされてるんだよ。」

なるほど。しかしそれでは…

「ああ、それじゃあ俺らが勉強してる意味がないってみんな思うだろう?つまり、さっきの話と同じように、実際に起こったか、起こってないかは関係なく、ただそうなっているというだけの話なんだよ。」

納得してしまった。なるほど、僕らは起こったか起こってないかわからないことを勉強していたのか…。

「ま、だからって勉強しなくていいわけじゃないけどな!中間試験がんばれよ!じゃな!」

そういって司は曲がり角を曲がって自宅へと帰っていった。

僕も家に帰りついて、部屋でベッドに横になりながら、さっきの司の言ったことを思い出していた。

実際に起こったか起こってないかは関係ない…か。浪漫のある話だ。確かにそういった歴史を学んでいるとなると文部科学省に疑問を抱いてしまうが、ただそうなっているということは、起こっていたのかもしれないという可能性もあるということだ。そうすると、神話なども実際に起こった話なのでは…などと期待してしまう。

「何をにやにやしている?はやく飯を作れセイ。」

「全く…、わかったちょっと待ってろ…。」

猫耳で幼子の容姿を持つナコが夕飯を要求してきた。僕は訳あってナコと2人で暮らしている。

これはただそうなっているだけの、僕とナコの普通ではない普通の日常の話。

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