ずっとジャパリパークへ

タン串

うみのそとへはいかせない

「サーバルちゃん。僕、海の外にヒトを探していってみたい」

 かばんちゃんは私にそう言ってきた。胸がざわざわしてくる。私、寂しいのかな?驚いちゃっているのかな?多分そのどちらもだと思う。

かばんちゃんは、この大きな海を目の前にしてもその先に行きたがっている。海ってこんなに広かったんだ…。ゆきやまで想像してたのとは大分違ったな。私にはこの海を行くなんて怖くて無理だな。かばんちゃんと一緒に行けないや。


でも、それはいやだな。






 バスに乗って港に向かってる間、私たちの旅は一旦終わると思っていた。そこにヒトがいたら、今みたいにずっと一緒に入れなくなっちゃうから少し寂しいな、なんて考えていた。ヒトがそこにいないって分かった時は、かばんちゃんには悪いけど、ちょっとだけ安心したんだ。だってまだまだこれからも二人一緒にいれるって思ったから。

 でもかばんちゃんはそうしようとはしなかった。まだまだ旅を続けるつもりでいた。一緒に住もうって言ったのに。私がいないと大変だったって言ってたじゃない。かばんちゃんは怖がりで、小さなセルリアンを倒せないほど弱くて…。弱くて弱くてよわくて、よわくて…。あたしよりも…よわくて。

「…サーバルちゃん?どうしたの?」

 ずっと静かになってちゃったから、かばんちゃんが心配してきちゃった。胸の鼓動が早くなっていく。私の中の「びっくり」と「さみしい」がぐちゃぐちゃになって、自分が何をしたいのか、何を考えてるのか、わかんなくなってきた。顔が熱くなってきた。

「ダメだよ!」

声を張り上げた。そうすればちょっとは落ち着くと思ったから。かばんちゃんは驚いた顔でこっちを見てきた。

 でも、胸のドキドキは収まらなかった。逆に強くなってきた感じがする。

「ど、どうして…?…ヴっ!」

気づいたらかばんちゃんの腕をがっしりとつかんでいた。顔を目の前にして言ってみせた。

「どうしてって、危ないからに決まってるじゃない!かばんちゃんは泳げないし、空も飛べないし、足も速くない!全然弱いじゃない!」

 出会ったときと言ってることが真逆だった。ほんとは、かばんちゃんの得意なことはわかってる。不得意なことを強調している自分が嫌になった。でも、もう自分が止められなかった。最初は驚いていたかばんちゃんの顔がみるみると沈んでいく。

「ずっとここにいよう…!ジャパリパークにいようよ!私とずっと一緒にいよう!海の外に行ったら…行ったら……」

 会えなくて寂しいって言葉が出てこない。そう言ったら、少し楽になれたかもしれないのに。でも、泣きそうなかばんちゃんの顔をみていると、なんだかゾクゾクしてきちゃって言えなかった。

「サーバル!カバンカラスグニテヲハナスンダ!カバンガイタガッテイル!」

 ボスが急に私に喋ってきた。気づいたら、手に力が入りすぎていて、血が滲んでいた。すぐにパッと放したけど、ごめんねって言葉は出せなかった。かばんちゃんは腕の傷よりも私のことを気にしていた。呼吸が荒かった。私たち二人は少しの間黙っていた。

「…サーバルちゃん」

 先に口を開いてきたのはかばんちゃんだった。なんとか声を出しているという感じだった。

「…ごめんね」

 そう言われるたら、少し落ち着いてきていた頭にまた血が上ってくる気配がした。さっきからずっと頭の整理をする時間がない。ずっと暴走したまんまだ。

「なんで謝るの!!私が何か間違っているの!!ねえ!答えてよ!!はっきりさせてよ!」

 そう大声で言ったら、かばんちゃんは泣き崩れてしまった。膝をついてボロボロと涙を流した。泣かせたい訳じゃなかったのに、私も謝るべきだったのに。泣いたかばんちゃんを目の前に私は何もしなかった。自分が嫌になった。

 でも、なんでだろう。かばんちゃんを言いくるめると、なんだか嬉しくなってくる。さっきの泣きそうなかばんちゃんを見た時の「ゾクゾク」と同じような感触だった。こんな風になっちゃった自分は悪いフレンズなのかな。

 そんなことをずっと考えていたら、泣きはらしたかばんちゃんがかすれそうな声で、ふねからでよう、と言ってきた。船から出てから、私たちは一言も話さなかった。海の波音を聞きながら、血塗られた指をそのままにしながら、その波乱の港を去っていった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る