『あ、安部礼司』で思ったこと

Wonderstyle

H30.4.29の『あ、安部礼司』で思ったこと

 そもそも『安部礼司』とは、毎週日曜日夕方5時からTOKYO-FM系列で放送している『NISSAN あ、安部礼司 -BEYOND THE AVERAGE-』。2006年に放送開始して、今年で13年目に突入した大人気のラジオドラマである。

 神保町にある架空の会社に勤める極めて平均的なサラリーマン・安部礼司Averageと、その同僚たちの日々の奮闘を描く。

 様々なドラマのあいだに、1970年~80年代前半に生まれた30~40代のサラリーマンの懐メロ(番組ではイマツボソング(=さらな曲))を次々に流すのが特徴。


 毎週とはいわないが、時間があえば聞いていたワタシとして、今週もドライブ中気軽に聞き流そうかと思っていたのだが、衝撃的な展開に思わず、衝動的に、発作的に、感想含めて書き残すことにした。

 

 ◇


 今週の番組テーマは『変化』。

 冒頭では番組がリニューアルされることを明示する。


 ……私はピンときた。

『ははーん、ターゲットユーザの変更だな』

 ターゲットユーザは働き盛りのサラリーマン。13年も続いていると、当時のターゲットにしていた層と、今の働き盛りのサラリーマン層とで、へだたりが生まれ始めるのは必定。イマツボソングにもへだたりが生まれているのだろう、と予想した。


 ◇


 ドラマのなかではまず平成30年(実際には放送開始の2006年から)をふりかえる。

 ざっと以下の項目だ。


・2006年 SUICAが携帯電話で使えるようになる

・2008年 iPhone発売

 →つまり10年前までは電車のなかでスマホを見る光景はどこにもなかった。

・2008年 『婚活パーティー』が始まる。

 →昔は『お見合いパーティー』と呼んでいた。

・2009年 首都圏の駅全面禁煙

 →昔は喫煙車輛もあった。

・2013年 電車内で携帯電話の電波がつながるようになった。

・2018年 神保町で昭和34年創業の「いもや」が営業終了


「平成生まれかあ、若いねえ~」

 というお決まり文句すらすでに通用しなくなっている(平成生まれももうすぐ30代だ)。


 ◇


 ドラマは進む。

 iPodクラシックに2万曲のイマツボソングを入れていた安部礼司が、定額制の『アップルミュージック』アップルミュージックに加入。

 4500万曲が聞き放題。

 ちまちまとCDを集めたり、レンタルCDを録音して集めた2万曲のほとんどがアップルミュージックで聞けてしまうことに衝撃を受ける。

 

 ……私も、90年代のCD(J-POP)をしこたま集める癖がある。いわゆる『中村貴子のミュージックスクエア』世代である私にとって、90年代後半のJ-POPは青春そのもの。当時カセットテープに録音しまくっていた曲のCDを中古屋やAmazonで買いあさる日々だ。

 アップルミュージック? もちろん未加入だ。まだ音楽をハード的にとらえてしまう固定観念がある。モノとして手元に持っていないと不安なのだ。

 結局CDからMP3に変換して聞いているのに。

 

 ◇


 ドラマはさらに進み、確信に迫る。

 衝撃を受けた安部礼司はこう思う。

「定額制聞き放題により、イマツボソングは『今さらツボな曲』ではなく『いつでも聞くことのできる名曲』になったのでは」

 

 そこに今どきの若い人(いわゆるサトリ世代)のエピソード。

 今どきの若い人はカラオケで最新の曲ではなく、サザンやピンクレディーなど、自分たちが生まれる前の昭和の歌や、歌謡曲をみんなで歌うという。

 それは昭和の歌の方が、みんなが知っていて、盛り上がれるからだという。

 さらに周囲に気を遣うあまり、カラオケを盛り上がるところまでしか歌わないという。


 ……会社の上司なんかと行く接待カラオケなら気持ちは分かるが、もし気兼ねない人たちとのカラオケで上記のことをするなら衝撃である。

 今の若者が、カラオケで空気を読んで歌っていることが衝撃なのではなく、最新曲ではもう、みんなで盛り上がることができないほど音楽の多様化が進んでしまったことに。

 誰もが知っている曲や、みんなが声を合わせて歌える曲が生まれない時代に突入したのかもしれない。違うと思いたい。


 ◇


 春木屋理論。いつも変わらない老舗の味を出すため、季節によって少しづつ味を変えているラーメン屋さん。

『変わらないために変わる』ということ。

 

 ◇


 ドラマ終盤。

 安部礼司の友人で、スーパーエリートサラリーマンの刈谷勇が、会社を辞めて渡米することを告げる。若いころの気持ちと野心を保ちつづけるため40代で挑戦する。

『変わらないために変わる』を選択した。


 ……放送当時から出演していたカリヤが突然の卒業。ドラマのなかでもかなり強力なキャラクターがいなくなるのは、番組にとってパワーダウンになりそうだが大丈夫だろうか。

 と、ここで気づいた。キャラクターの卒業こそ番組自体が『変わらないために変わる』ための選択だということに。

 

 ◇


 そして最後。

 カリヤが去ったのち、安部礼司はiPodの2万曲の音楽を全消去した。


 ……それがなにを意味するのか。放送のなかでは来週をお楽しみに、として明示しなかった。

 私が予想した通りの展開(ターゲットユーザの変更)だけでないことが起こるだろうか。おそらく違う気がする。


 ◆◆◆


 今回の放送。

 カラオケで気を遣う若者。これは昔からいるので気持ちは分かる。しかしコミュニケーションツール用の音楽と、自分用の音楽を、本音と建前として明確に分けるようなことは昔はしなかった。90年代は、みんな知っているヒット曲がたくさん生まれたのが大きい。

 今はもう音楽を知る入口の多様化もさることながら、音楽を入手できる入口の多様化が進みすぎてしまった。昔は気に入った曲でもマイナーな曲だったら、なじみのCD屋に注文して二週間ぐらい待ってやっと手に入れたものだが、今ならネットですぐに聞ける。

 自分の好きな曲だけを聞くことが出来てしまう環境では、あえて建前用のコミュ曲を仕入れておく必要があるのだろう。しかしそのコミュ曲が最新曲ではないのだ。


 それもまたネットが――定額制聞き放題がもたらしたパラダイムシフト。


 定額制が登場する以前は、昔の曲のCDを手に入れるのは中古屋を回るしかなかった。しかし定額制があれば、昔の曲でも最新の曲でもおなじ条件で手に入れることが出る。

 今の若者は、昔の曲だ、今の曲だ、という線引きをしない音楽の楽しみ方をしているのかもしれない。

 これからの最新曲は、無限に増え続ける昔の曲と同じ土俵で勝負することになるということだろうか。すさまじい。


 定額制システムは今後、音楽以外のコンテンツ(小説、漫画、動画・映画、ゲーム)でも採用されていくだろう、というかすでになっているか。


 音楽の多様化と、定額制聞き放題の登場が、安部礼司をリニューアルさせる方向に進んだのかもしれない。

 

 ◆◆◆


 よくよく考えたら先週の放送が前フリだったのだ。

 今までの全放送で流した曲のアーティスト・トップ10だったのだから。


 しかしカリヤ会社辞めたのか。赤井彗星シャー長からなに言われたのかな。。。

 ん? カリヤはいなくなったけど、カリコはまだいるよな。。。


(おわり)

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